07


あれから3日ー

ビアンキのおかげで京子ちゃんとハルの表情もだいぶ明るくなったと思う。不安はきっとまだあるんだろうけど、この時代のことをよく知る大人が近くにいてくれるだけでだいぶ違う。

獄寺くんと山本はまだそれぞれ病室にいて、絶対安静を言い渡されていた。俺もこの3日間はリボーンから安静にするようにと珍しくスパルタじゃないことを言われて、とてもビックリした。だってあのリボーンが休めだなんてさ。思えば、バジルくんがボンゴレリングとともに日本に来てからほとんど休みらしい休みはなかった。
遊んでたところに急にスクアーロがきて、よくわからないまま修行を始めて、暗殺者達と戦って。

漸く平和を勝ち取ったと思ったら今度はリボーンがいなくなって。探してるうちに10年後の棺桶の中にいたんだもんな。帰れないだけじゃなくて、最悪な時代になっちゃってるし、そもそも俺死んでるし。

今日からまた修行が始まる。

だけど今だって正直わかんないんだ。これって俺達のすることなのかな?って。俺達、帰れないから過去に帰るために入江正一って奴のところに行かなくちゃいけないんだよね。そいつがたまたまミルフィオーレファミリーの隊長で、今まさにボンゴレを潰しにかかってるんだけど。ボンゴレとミルフィオーレのいざこざは俺たちは関係なくて、百歩譲って未来の自分のことだから関係あるとしても、100パーセント京子ちゃんやハルには無関係なんだよ。

ヴァリアーの時もそうだった。

急にやってきた暗殺者と友達が戦うことになっちゃって、俺が選んだ守護者じゃないんだよ。もちろんすごく心強いしみんなのおかげでヴァリアーに勝つことができたんだけど、本当だったらみんなにはマフィアとか戦うとかそういうのとは無縁の世界にいてもらいたいんだ。

10代目になりたいわけじゃない。なりたくはない。ならなくていいなら是非なりたくない。今も希望は捨ててない。
だけどエミさんの言うようになりたくてもなれなかったザンザスもいる。じゃあ、ザンザスの分まで精一杯10代目を務めたいのかって言われたら答えはノー。


こんなことばっかりを考えていたら3日なんてあっという間に過ぎ去って、やっぱり俺は修行をするんだ。強くなるために。







「これ、私のリングと匣。恭弥に預けておくね。」

「僕に渡したら隅々まで調べ尽くすよ?」

「そうしたきゃしてもいいけど。ソレは厄介だから開けないことをオススメするわ。」

「飼い主に似るんだね。」


エミが雲雀に手渡したのはふたつのリングといくつかの匣だった。リングのひとつにはヴァリアーのエンブレムが彫られてあり、ボンゴレリング程ではないがAランクの立派な指輪だ。
通常死ぬ気の炎を宿して戦う者は自分の身丈に合ったリングと匣を所持していて、炎の出力が多く純度が高いほどランクの高い精巧なリングに炎を灯すことができる。
雲雀は特例中の特例なのだ。
彼ほどの炎を灯し続けられるのはボンゴレリングしかなかった。それを破棄してしまった今、彼に見合うリングがない。だから雲雀はCやBランクの指輪を使い捨てにしながら戦う。低いランクのリングでは雲雀の炎に耐えきれずに砕けてしまうのだ。


「これも?」

「そうよ。実はそれが一番大切だから無くさないでね。」

「僕が使い捨てにしてあげようか?」

「笑顔でものすごいこと言わないで。だいたいソレはただのシルバーリングだから炎は出ないわよ」


ふたつのリングのうち1つはただの指輪らしい。飾り気のない質素なシルバーリングだがセンスのいい曲線がその指輪の価値を物語っていた。キラリと光るその指輪と他のリングと匣を手のひらに乗せて眺めながら面白くなさそうな顔をする雲雀をエミは逆に面白そうに眺めている。それがまた雲雀を面白くなくさせるのだが、この人にそんなこと言ってもどうにもならないことを雲雀は知っていた。


「大事なものなら自分で持ってればいいのに」

「大事なものだからこそ、恭弥に預けておくんじゃない」


まるで大人と子供の言葉遊びのようだった。こう言われてしまったら雲雀はこの預かりものをしかるべき時まで大切にしておかなければならなくなる。責任感の強い男だから尚更だ。エミはそんな雲雀の性格をよくわかっている。わかった上でわざと言葉を選んでいるわけではないところが厄介であり、好ましくもあるところだと雲雀は思う。

いつだって彼女に子供扱いをされることが不服でありながら心地よくて、対等でありたいと思いながら自分の手をひらりと交わしてしまう彼女が魅力的だった。この感覚は言葉で表現するのは難しい。好きとか嫌いとか愛してるとか、そういう言葉で表すのは物足りない。


守るべきは小さな世界


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