06


やっぱり未来の人達には悪いけど、こんな世界から早く抜け出して俺たちのいた並盛に帰りたい。


「話、いいかな」

「雲雀さん!」


獄寺くんの病室にやってきたのは10年後の雲雀さんだった。
学ランを靡かせていた彼が、今はスーツに身を包んでいる。できる男感が増していて余計に怖いのは多分俺だけじゃないはずだ。でも待てよ、ここにいる俺以外は全員京子ちゃんやハルも含めて雲雀さんにそこまで恐怖心は持っていない。
山本はあんなんだし、獄寺くんは敵意こそあれど恐れているような感じじゃないし。やっぱりみんな肝が座ってるよなぁ。


「………エミは?」

「あっ、あの、山本と獄寺くんのリング反応が神社で消えるのはまずいってことで…」

「ふーん。エミがいないなら僕は帰るよ。戻ってきたら僕の部屋に来るように伝えといて」

「へ、部屋!?」


何か俺たちに話があってきたはずの雲雀さんは、エミさんがいないとわかると早々にこの場を離れようとした。ちょうど雲雀さんがきたタイミングでジャンニーニや、諜報活動でアジトを空けていたというビアンキとフゥ太が帰還したことで雲雀さんの嫌いな群れが出来始めていたのも理由のひとつだと思う。

俺の記憶はこの世界の10年前、リング争奪戦が最後だ。俺たちの敵として独立暗殺部隊ヴァリアーが並盛に来た日のことは遠い昔のようで実は最近の出来事だった。確か雲雀さんは雲戦の後ザンザスを挑発してエミさんとやりあってるんだよね。

そんなふたりがこの10年で何を築きあげたのか。

雲雀さんはかなりエミさんに懐いているように見えるし(エミさんの方が年上だからどうしてもそう見えてしまう)エミさんも雲雀さんにはだいぶ心を許してるんだと思う。

結局、人口密度の増していく病室に我慢ができなくなった雲雀さんは、何故か俺に一撃加えて自分のアジトに戻っていってしまった。雲雀さんが戻ってすぐに草壁さんがラルとエミさんを連れてやって来たから行き違いだったけど、雲雀さんがいるとなんか怖いから帰ってくれてちょっとホッとした。


「では雲雀の代わりは私が務めます。」


ヒバードは黒川の要請で雲雀さん達が飛ばしたものだった。SOS信号が途絶えたのはバッテリー切れが原因らしいけど、そこでちょうどγと鉢合わせてしまうんだから怖いよな。京子ちゃんがアジトを出て行ってしまったこととヒバードのSOSは実はリンクしていたんだ。


「で、おまえらの組織は何なんだ?」

「平たく言えば並盛中学風紀委員を母体とした秘密地下財団です。」


雲雀さんは匣の研究をするために財団を設立し世界中を飛び回っているらしい。その財団のメンバーが風紀委員で構成されてるところはもう流石としか思えないけど、雲雀さんもこうしてマフィアに関わっているんだな。相変わらず守護者なのかと言われたら微妙な立ち位置みたいだけど、俺も雲雀さんにボンゴレに入って欲しいとは思わないし、好きなことを自由にやってる方が合っていると思う。
でもなんだかんだと本当にピンチな時はいてくれたら助かるし、だからこそお互いのアジトが開くことのない扉で繋がってるんだ。


「おまえはついにザンザスからツナに乗り換えたか?」

「そんなことしたらこの世に存在してないわよ。綱吉が暗殺されてから世界中でボンゴレ狩りが始まったのは知ってる?今は時間的に見ても少し落ち着いた頃かしら。」

「じゃあ、ヴァリアーも…?」

「ええ。でもうちは大丈夫よ。蹴散らしたから。とは言え本部や同盟ファミリーに隊員を貸したりしてるから手こずったけど。綱吉がいない日本が立て直しに時間が取られればここも危ないと思ってきてみたんだけど…」

「…………あ、あはは」

「綱吉生きてるし、小さいし、ひょろひょろだし」


ちょ、言いすぎー!と心の中で突っ込んだ。
エミさんはバラバラに散った守護者も様子を見てここに戻ってくると仮定して、イタリアの状況を伝える目的とこちらの立て直しのためにわざわざきてくれたらしい。
そして来てみれば俺は10年前の姿で生きてるし、獄寺くんと山本も若返っていて、それなのにγと戦ってるし負けてるし。ツッコミどころがありすぎて半分笑ってた。なんだかすごく楽しそうだ。


「10年バズーカの故障で過去に帰れないのよね?」

「そうみたいです。入江正一って奴が何か知ってるかもしれなくて…」

「過去に帰れない今、入江をやるのはあなた達ってことね」

「やるって…?」


恐る恐る聞き返した俺に素敵な笑顔で微笑んだエミさんは何も答えてくれなかったけど、もしかしなくてもやるって殺るってことだよね!?
ナチュラルに言われたものだから突っ込む事も出来なかったけど、やっぱりこの人暗殺者だ。雲雀さんの口癖とはわけが違う。冗談を言っているわけじゃないんだ。


ビアンキとフゥ太はミルフィオーレファミリーのアジトと入江正一の存在を確認してきてくれた。今のところで一番大きな情報だった。アジトも思っていたより近くにあって、入江正一も近くにいる。
写真でしか見たことのない男が、何故か今になって実在するんだな〜なんて考えていたところにエミさんの声が聞こえて俺は大事な伝言を伝えそびれるところだったことを思い出せた。


「あれ?恭弥は?」

「恭さんでしたら…」

「あ!あ、あの!!雲雀さんが部屋に来いって…言ってました…けど…」


雲雀さんが帰っちゃってからだいぶ経ってしまってる。遅いという理由で雲雀さんが不機嫌になるのが想像できてしまうし、この場合被害にあうのはこれから会うエミさんじゃなくてきっと俺なんだろうな。


どうかエミさんがうまくやり過ごしてくれますように。草壁さんと出ていく彼女の背中に手を合わせて拝んでおいた。


守るべきは小さな世界


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