05


俺とラルが並盛神社に着いた時、まさに今決着が着くところだった。てっきり獄寺くんと山本がミルフィオーレのγって奴と戦っているんだと思ったけど、目の前を横切っていったのは俺が知るより大人な雲雀さんだった。


「エミ…さん?ですよね?」

「なによ綱吉、老けすぎて分からないって言いたいの?」

「え!?いや、そんなことっ!」


雲雀さんに教えてもらった林の中には、風紀副委員長だった草壁さんと、ヴァリアーの副隊長エミさん、そしてボロボロの獄寺くんと山本がいた。

ついこの間までボンゴレリングを奪い合ってたエミさんとこうして10年後の世界で会うのはなんだか変な感じがした。

あの時のエミさんは、俺たちに敵意も興味もなさそうだった。なによりもザンザスとヴァリアーのために生きてる人なんだろうなと思う。そんなエミさんがどうして日本に、しかも雲雀さんたちと一緒にいるのかは分からないけど、俺たちは10年間で、少しはいい関係を築けたみたい。それがなんとなくエミさんの雰囲気でわかった。


「あ、あの、なんでここに?」

「お待ちください。ひとまずふたりをアジトへ運びましょう。」

「後でゆっくり説明するわ。恭弥、【そこ】から行けるの?」


黒いスーツに身を包んだ雲雀さんとエミさんは、ふたり並ぶととても絵になって。
周りの人達はほとんど10年前と入れ替わっちゃってるから、アジトにいたらここが10年後の世界だって忘れそうになる。

だけど今、目の前で話すふたりは俺の知ってる雲雀さんやエミさんじゃなくて、そしてふたりにしかわからない会話でここが俺たちの世界ではないことを思い知らされる。


俺たち、確かにここにいるのに。

でも本当はこの世界にいるべき沢田綱吉は俺じゃなくて。

そしてこの世界の沢田綱吉はもういなくて。


「……………」

「綱吉?」

「あっ、は、早くふたりをアジトにっ!」

「待て負傷者もいる。今彼らを抱えあの距離を引き返しハッチに戻るのは危険だ」


そうだった。外にはたくさんのミルフィオーレファミリーがいて、ここまでだいぶ神経を使いながらきたんだ。そんな中動けない2人と京子ちゃんを連れていくのは危険だし、でも2人を早く安全なところでちゃんと診て欲しいし。

冷静なラルとテンパる俺を無視して雲雀さんは歩きだす。眠たそうに欠伸をした雲雀さんの肩にどこからか飛んできたヒバードが止まった。そんなヒバードとともに雲雀さんは消えた。

びっくりして口を開けたまま固まった俺にエミさんが隠し扉に続いてることを教えてくれた。
この神社と雲雀さんの所有する建物は繋がっていて、幻覚でカモフラージュされた特殊な入り口があるらしい。らしいっていうのはそういう説明はされたけど、そしてそこを通ってきたわけだけど、見た感じ違和感はないし言われたって分からないくらい完璧なカモフラージュだってこと。


建物の中は普段俺たちがいるアジトとは違い和風で落ち着いた雰囲気だった。勝手な想像だけど和服でここを歩く雲雀さんが頭に浮かんできた。


「エミさん達、大丈夫かな…」

「彼女達は強いですよ。心配ありません。」


エミさんとラル・ミルチは敵のレーダーにも映ってしまっている獄寺くんと山本のリングの反応を、それぞれ違う場所で消滅させるため動いている。
神社から一瞬で姿を消したエミさん。彼女が強いんだろうなっていうのはなんとなくわかるけど、戦ってるところを見たことがないんだよね俺。エリート集団の副隊長だから実力は申し分ないんだろうけど、どうにも周りが個性派揃いすぎてエミさんは普通の人に見える。何をもってして普通なのかも今となってはもう分からなくて、俺だってきっと【普通】の人から見たら十分おっかなく見えてるんだろうな。


「ちゃおっす」

「どうしてリボーンがここに?」

「我々の施設とあなたのアジトは繋がっているのです」


長い廊下の先で、リボーンが待っていた。
相変わらず白い全身タイツを着てるけど、こいつのせいで俺はたくさんの迷惑を被ってきたけど。
こいつのせいで賑やかな毎日を送ることになった俺。昔の自分が見たらなんて思うかな。






「…………母さん…?」

「…えっ?」

「……………あ、あれγは…」

「山本!!!目が覚めたんだね!」


ボロボロだったふたりはそれぞれ別の部屋で処置を受けて、静かに眠っていた。
命に別状はないらしいけどすぐには動けないだろうってことだった。

敵の幹部クラスとやり合ったふたり。

あの時、雲雀さんが並盛神社にきてくれていなかったらって考えるとゾッとする。たぶん、雲雀さんがいなかったらふたりはここにいなかった。


「ツナ…獄寺は?」

「獄寺くんも無事だよ。γは雲雀さんがやっつけてくれた」

「そっか…。俺、獄寺に言わなくてもいいことまで言っちまった」


ふたりはγとの戦いの中で何やら一悶着あったみたいだ。山本は俺に詳しくは話さなかったけどその表情が反省してるって顔をしてる。

いつも獄寺くんは山本に当たりが強くて、それでも山本は気にしてない風に笑い飛ばすことが多かった。だから喧嘩にもなったことないしいつもはどちらかというと獄寺くんが一方的に噛みついてるんだけど、今回は山本も思うところがあったのか何かを伝えたみたいだった。
俺にはそれが少し羨ましい。


「そういえば起きた時、母さんって…」

「あー…なんかγにやられて倒れてたとき、女の人が微笑んでくれた気がしたんだよな〜」

「それ、エミさんじゃない?」


倒れていた山本に応急処置を施したのは間違いなくエミさんだ。山本が言うように微笑んだかどうかまではわからないけど。
エミさんというフレーズに数秒間固まってようやく指輪争奪戦の記憶にたどり着いた山本は、なんだか複雑な表情を浮かべた後にいつもと変わらない笑顔を見せた。

怪我の割に元気そうな山本の病室を出て獄寺くんのいる部屋へと向かう。

獄寺くんも目を覚まし、一番に山本の安否を訪ねてきた。見た目よりも元気そうな旨を伝えると口では残念そうにしてたけど、安心したような表情を浮かべた。


「俺こっちの世界に来てビビってたみたいっす」


ふたりがどんなやり取りをしたのかわからなかったけど、山本の言葉は確かに獄寺くんに届いてる。お互い言い過ぎちゃって反省もしてるみたいだけど、それって本音をさらけ出せる関係だからこそだ。

獄寺くんも山本も平気そうに見えるけど実は不安でいっぱいいっぱいだったんだ。余裕がないと人は偏った考え方しかできなくなるし、刺々しくて周りも自分も攻撃してしまうんだね。ふたりはお互いに棘を抜きあったように見えた。

不安なのは何も俺だけじゃなかった。


守るべきは小さな世界


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