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単身、日本へとやってきた特殊暗殺部隊ヴァリアーの副隊長であるエミは、個人的な理由で日本を離れていた雲の守護者、雲雀恭弥とその右腕、草壁哲矢と共にボンゴレ10代目が建設中だった日本支部へと向かっていた。

ヘリから車へと乗り継いでからだいぶ時間が経っていた。

近寄れるのはギリギリ隣町まで。そこから先は、ミルフィオーレファミリーが多くいるので、それを避けつつ行動しなければならないだろう。


もう少しで隣町付近というところだった。

静かだった車内に、一本の電話が入る。


「恭さん!黒川花よりSOS要請です。」

「笹川京子の友人だね。」

「その笹川京子を自宅にて保護したと連絡が入りました。ヒバード飛ばします。」


ヒバードは雲雀が飼う黄色い小鳥。
頭がよく、空気が読める優秀な鳥なので雲雀が可愛がっている。周りで多少うるさくしても咬み殺されないのは、きっとヒバードだけの特権だ。


ヒバードは発信機をつけ、黒川宅へと飛び立った。


「随分かわいい伝令さんね。」

「なんで笹川京子は外にいたの。」

「それが、本来ならば合宿で並盛にはいないはずなんですが、黒川花の話では【小さい京子が追われている】と…」


ボンゴレ狩りは各地で行われていた。

それはファミリーだけに留まらず、ファミリーの家族、友人、顔見知り程度の人間にまで及んでいる。関わりがあった人間全てがターゲットなのだ。

その中でも笹川京子は、晴れの守護者の妹。
捕まれば、命はない。


「まずいです!発信機のバッテリー残量が黒川宅まで持つかどうか…!」

「現在地は」


渡されたタブレット端末には、並盛の地図とヒバードの居場所を示す赤い点、そして指輪のランクごとに色の違う点が数十。


「恭弥、これAランクよね?ミルフィオーレ日本支部のAランクリング保持者って【電光のγ】じゃなかった?」

「ちょうどいいね。」


雲雀が笑ったのと、発信機のバッテリーが切れたのはほぼ同時だった。

場所は並盛神社。







「京子ちゃんがいない!?」


突如アジトに鳴り響いた警告音。敵の襲撃か、アジトへの攻撃か、どちらにしてもこの世界にきて初めての事態だ。
駆けつけた俺たちに見せられたのは一枚の鳥の写真。それもなかなかに小憎たらしい黄色の小鳥。これは間違いなく骸の野郎のとこの弱っちいハゲオヤジの飼ってた鳥。それを雲雀が手懐けて飼ってるんだと。この警告音はそのヒバードからのSOS信号だった。


そして一足遅れて駆け込んで来たあほ女から告げられたのは笹川京子の失踪だった。


地上にはミルフィオーレファミリーがうじゃうじゃいるというのに、女がひとりで出ていった。それも戦い方どころかこの世界のことを何一つ知らない奴が。しかし雲雀、または雲雀に関係のある者がSOS信号を出すほどの何かが起こってるのも事実。どちらものんびりしてたら手遅れになるのは間違いない。


「俺とラルは京子ちゃんを、獄寺くんと山本はヒバードを頼むよ」


10代目に任されたのはヒバードの捜索。しかもよりによって山本とペア。
俺はこのおちゃらけた奴といると無性に腹が立ってしょうがない。


ヒバードのSOS信号は並盛神社で途絶えていた。

ここにくるまでに何人かのミルフィオーレファミリーと思われる奴らを倒してきた俺たちは、少しだけこの世界の戦い方に慣れたつもりになっていた。


「ボンゴレの守護者ってのは腰を抜かして方々へ逃げたって聞いたが、こりゃまたかわいいのがきたな。ボンゴレってのは若返りの水でも飲んでんのか?」


見ただけでわかる。
さっきの奴らとは明らかに違う。

強いなんて言葉にするのは簡単だが、それを頭で考えるよりも早く肌で感じてしまった時、人は武者震いってやつをするのかもしれない。


「そういや自己紹介がまだだったよな。俺はγってんだ、よろしくな。」


ラル・ミルチの言っていた電光のγ。

こいつを倒せば10代目のお力にもなれるし、過去に帰る方法も聞き出せるかもしれねぇ。
匣とボンゴレリングの使い方には慣れてきた。砕いてしまったというボンゴレリングの力は未知数だ。


「獄寺。ここは手ぇ組んだ方がよさそうだな。」

「っるせぇ。組む気はねぇって言ってんだろ。すっこんでろ。」


こんな場面でもヘラヘラとした表情を崩さない山本が、馴れ馴れしく話しかけてくる。


最初から俺はこいつが嫌いだった。


クラスの人気者で、いつもヘラヘラ笑ってる。誰とでも分け隔てなく接するお調子者。
そんな奴が、なぜか10代目とつるむようになっただけでも邪魔臭くてしょうがなかった。

この世界のことをごっこ遊びだと勘違いしていた時も、なんとなく理解し始めた今も。

命をかけて、時には命を奪うやりとりがあることをこいつはまだ理解しちゃいねぇ。
だから目障りなんだ。フェアじゃない世の中が存在することをこいつは知らない。


「仲間割れか?」

「逃げやしねぇから安心しろ。お前の相手は俺がする。」


中途半端な奴は足手纏いになるだけだ。
俺はこいつのことまで守ってやる義理も情も持ってねぇ。

そうやって、今まで自分の身ひとつで生きてきたんだ。そして、10代目に救われた。
自分以外に、自分よりも大切だと思えるものができた時から俺の覚悟は揺るがない。


守るべきは小さな世界



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