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3.2.1ー爆破ー


寝静まる並盛の上空に突如現れた白と黒の兵士達。背後の白く大きな月が照らす数え切れないほどの人、人、人。
向かうは並盛ボンゴレ日本支部。

迎え撃つはーー


「君も一緒に行っても良かったんだよ」

「…あの子達は白すぎる」

「僕の方がいいって素直に言えばいいのに」


ボンゴレ地下アジトから数キロ離れた地点にて、大量のミルフィオーレ軍を目の前にして笑い合う男女がいた。

通信機器の電波を全て破壊、グロキシニアがクローム髑髏との戦闘時にしかけた発信機を頼りに辿り着いたのは、ボンゴレ日本支部ではなかった。突破口が伸びてきた檻で囲まれていく。そこから投げ込まれたグロキシニアの発信機を見て、漸くこれが仕掛けられた罠であったことに気がついた。


「弱いばかりに群れをなし咬み殺される袋の鼠」

「わ、罠だ!」

「あれだけドンチャン突入してきて気付かれていない方が不思議だと思わないのかしら?」


今頃、綱吉達は無事にアジトを出たのだろうか。計算ではメローネ基地の殆どの兵士達がボンゴレアジトの襲撃のためにここへきている。彼らが安心して地上に出られるように、そして無事にメローネ基地へと辿り着けるように既に深夜のうちからビアンキとフゥ太が動いている。

雲雀は発信機を利用してここへミルフィオーレファミリーをおびき寄せた。
突破口を塞ぐ檻は電波の類を遮断するもの。必死に基地へと繋がる無線に呼びかける姿はなんとも無様であり、奇襲をかけて楽にここを制圧する予定だった奴らにとっては大きな誤算だったに違いない。


パリンッと鳴るのは雲雀の指にはめられていた雲のリング。彼の炎圧に耐え切れず割れたリングの最後の音が高らかだった。そんな使い方をするのは雲雀くらいで、目の前でリングが弾けたところなど見たこともなかった兵士達は彼がその炎を匣に注入し微笑むのを見て生唾を飲み込んだ。


「可愛い匣アニマルね」

「君は出してやらないの?ソレ」

「…イジワル」


ロールの針に半数がやられただろうか。得意げなロールがキュウと鳴く。よく懐いているようだ。
ソレ、と言われたエミの匣アニマルは今の所出す予定はない。トンファーに雲の炎を灯して構える雲雀の横に立つ。彼女の剣にも雲の炎が灯っていた。

炎を使ったトレーニングを行ってきたエミだが、未だにヴァリアーのリングに炎を灯すことはできなかった。何が足りないのか、わからぬままではこのリングに炎が灯ることはないのだろうと思っている。ヴァリアーの雲の匣兵器も一度精度の低い雲のリングから炎を注入し開けたことがあった。結果は散々。やはりあれは、ヴァリアーリングをきちんと使いこなし純度の高い雲の炎を注入してやらないといけない匣なのだろう。

エミはそれでもいいと思っている。どうしても未来の自分の残したものは、たとえ自分の物なのだとしてもどこか他人のものであると感じてしまう。ヴァリアーリングも、匣も、自分ではなく本来の未来の自分が使ってこそだと思っている節がある。炎はヴァリアーリングではなくても灯すことができる。そこから武器の武装もできるようになった。対匣兵器戦において些か不安はあるものの、匣兵器のほとんどは動物だと聞く。剣一本で倒せない相手ではないというのがエミの出した結論だった。


「残りは僕が掃除しよう」

「あら、独り占めはなしよ」

「やれるのかい?」

「甘く、見ないでもらえるかしら?」


ふたりの炎が激しく燃え盛る。
同じ精度のリングを使っているにも関わらず、やはり雲雀の炎の色の方が透き通っていて綺麗だ。同じ色の炎なのに、ここまで違うのか。もし、この時代にボンゴレリングが存在したとしたら、雲雀はどんな炎を出すのだろう。今よりさらに純度の濃い最高級の炎を、最高級のリングに灯す。それを見てみたいと思った。







「何、してるの?」

「雲のリング集め」

「…貴方そうやって沢山のリングを集めていたのね」


ボンゴレアジトへと侵入してきたミルフィオーレファミリーを全滅させた雲雀とエミ。全てを地に沈めた雲雀はおもむろに敵の手や懐を探る。これも違う、あれも違うと容赦なく放り投げられるのは敵のつけていたリングだった。
雲のリングを使い捨てにする雲雀はこうやって戦利品として雲のリングを頂戴していたに違いない。

突入部隊の編成はミルフィオーレの幹部が決めること、細かいところまではわからないが、大空以外の全属性を一通り揃えるとして、バランスでいくと霧や雲というのは比較的少数でいい。
炎の特性を雲雀から聞かされたエミが、この突入作戦の編成を考えるのだとしたら雷、嵐、雨は機動力として重宝したい。見るにここの兵士達も雷や嵐属性が多く、雲雀のリング探しは難航していた。


「めんどくさい」

「まだ時間かかる?私彼らを呼びにいくわ」

「構わないよ。揃い次第僕らも出よう」


てっきり雲雀はメローネ基地には向かわないのだと思っていた。綱吉達とは違う、何か別の目的があるような気がしていたのだ。今でもそれは変わらないのかもしれないが、それもまたメローネ基地にあるということなのだろう。
体調の優れないクローム髑髏とまだ子供であるランボ、イーピンを連れていくと言い出したのも雲雀だった。綱吉達にはもちろん秘密である。本人達ですらまだそのことを知らされていない。子供達は今頃草壁に起こされているだろうか。

群れを嫌う雲雀が彼らを連れていくと言うのだから、彼らの力が何かしらの役に立つと見込んでのことなのだろう。そうでなければクローム髑髏や、戦えない子供達を連れていくわけがない。同じく戦えない京子とハルは置いていく。雲雀の判断基準はどこにあるのだろうか。


「クローム髑髏、起きて」

「…貴女、ヴァリアー」

「あら、支度できてるのね」


病室にはすでに制服を身に纏ったクロームの姿があった。トライデントを大事そうに抱えてベッドに腰掛けている。その表情は万全とは言えない。
クロームとエミが未来で対面するのは初めてだった。彼女はここにきてからの殆どをこの病室で寝て過ごしている。

お互い過去から来た身。
最後に会ったのはリング争奪戦である。それも随分昔のように感じるがつい最近のこと。最後に見た彼女は苦しそうだった。なんとかそれだけは覚えているものの、あの霧戦はエミにとっても苦しい一戦だった。幻術の掛け合いが凄まじい速さで繰り広げられる中で、容易く幻覚汚染に陥った。術士への苦手意識が芽生えた瞬間でもあった。クロームがエミをヴァリアーだという理由で警戒するというのなら、エミはクロームが術士であるもいう理由で警戒している。


「雲雀に聞いていたのね」

「………」


こくんと頷くクロームのなんとも弱々しい姿。こんなに弱々しい彼女がアルコバレーノであるマーモンを追い詰める程の幻覚を作ってしまうのだ。恐ろしいにも程がある。いや、実際に最後にマーモンを倒したのは六道骸という男らしいということは耳にしたのだが、如何せんその男の姿すら見ていないので印象は薄い。あの復讐者の牢獄から脱獄した凶悪犯だという男と、目の前の彼女の関わりは不明である。

ふと、大事そうに抱えるトライデントが目に入る。そういえば彼女はマーモンとの戦いの時もこうやって大事そうに抱きかかえていた。


「ソレ大事なものなの?」

「……」

「そう。…貴女はどうしてメローネ基地へ向かうの?」


再びこくんと頷くクロームへ問いかけた。何がこの子を突き動かすのだろうか。ベッドの脇には引き抜かれた点滴の針と酸素マスクが転がっている。戦える状態ではなさそうである。それでも彼女の瞳には強い意志が感じられた。
リング争奪戦の時もそうだった。綱吉の守護者として現れた割に彼とは初対面らしかったし、彼女の戦う理由は綱吉ではない。

メローネ基地に向かえば入江正一がいて、その入江正一が今回の怪現象の原因であるというのが綱吉達の予測であり、今回の突入作戦の最終目的でもある。だとしても、彼らの作戦はすでに始まっていて、そこにこの状態のクロームが加わったところで勝機が上がるのかと言われてもそこまでの戦力にはならないだろう。雲雀が連れていくというのだから何かしらの必要性はあるのだとしても、彼女の意志で向かう【理由】がエミにはわからなかった。


「…骸様を、助けてあげたいから」

「骸、様ね。そこに行けば骸様はいるの?」

「わからない。でも骸様は死んでない」


確かクロームの体調が急変した際に六道骸の安否が囁かれていた。その後一切の情報はないが、彼女の瞳が六道骸が生きていると信じている。何かしら感じ取るところでもあるのだろうか。きゅっと力を込められた手の中でトライデントが鈍く光った。


「それじゃあ、行きましょう。メローネ基地へ」




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