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「いよいよだな。ヒバリ!明日は我ら年長組いいとこ見せんとな!!」

「いやだ」

「落ち着いて笹川さん!」

「離せ!!中坊ん時から成長せん男め!」


庭の鹿威しが風流な音を立てるが、ここは施設の中でもっというと地下である。
一見、地上の屋敷と変わらないので時々自分が太陽の光を随分と浴びていないことを忘れそうになる。

雲雀にあわせて和装で集合した成人組は、多少のお酒を酌み交わしながら明日の作戦の最終確認。
それに無理やり付き合わされる形となったエミも雲雀の用意したものを着用している。


日本人の母親を持つエミだったが生まれも育ちもイタリアである彼女が着物の着付けができるはずもなく、とんずらをかこうかと思っていた。


結局様子見と言う名の監視にきた雲雀にまんまと見つかり、問答無用で身ぐるみを剥がされ着付けが完了した頃には疲れ切ったエミが雲雀の隣に大人しく座っているという面白いものができあがった。


「僕の目的は君たちと群れるところにはない」


雲雀は別行動をする。
まるで初めからそう決まっていたかのように妙にしっくりとくるのは彼が一匹狼だからなのだろうか。
騒ぐ笹川を草壁が宥めている間、薄眼を開けてエミに視線を寄越してきた雲雀は何を思うのだろうか。


「ラル・ミルチあなたは明日どうするのですか?」

「無論出る。戦力は多いに越したことはない」

「その体調で無理をするな!小僧だってアジトから出るのを断念しているのだぞ!」

「死にたきゃ死ねばいいさ」

「ヒバリィ!お前には思いやりの心はないのか!」


ラル・ミルチはアルコバレーノだと思われていた女性。
確かに10年前は同僚のマーモンと同じく喋る赤ん坊だったはずで、チェデフにて活躍をしているという噂は耳にしていた。その彼女が、こうして大人の姿でここにいる。姿は20代だろうか。

アルコバレーノという存在やその現象は理屈ではどうにも説明のできないことが多すぎて、何年も前の自分は早々に考えるのをやめた。マーモンはあまりアルコバレーノであることを誇ってはいなかったようだし、それを呪いだとして解くことを望んでいた。

アルコバレーノの呪いが解けた結果が、マーモンの望むその後が、一体なんなのかまで聞いていないが(きっと聞き出すにはたいそうな額の金を要求される)何年も赤ん坊のままの姿でいる彼のことを思えば、なんらかの原因もしくは呪いで成長が止められているなどが妥当なのだろう。


喋る赤ん坊時代があったラル・ミルチは呪いを解いたと言うのだろうか。


「盛り上がってるな。どーなんだ草壁。明日の突入作戦のシミュレーション結果ってのは出たのか?そのためにオレを呼んだんだろ?」

「あっ」

「なんだエミ」

「…いえ、なんでも」


リボーンはアルコバレーノの中でも9代目からの信頼が厚い人物である。次期10代目の家庭教師を任せるくらいなのだから。
そんな彼もこの世界では行方知れず。

マーモンももうこの世界にはいないのだと聞かされても、あの子のことだからまたひょっこりと、何もない場所に突如浮かび上がって小さな口から辛辣な言葉を吐き出すのではないかという淡い期待が止められない。


「明日の作戦の成功率をハイパーコンピューターで試算しました。敵施設の規模から人数を割り出しミルフィオーレ構成員の平均戦闘力を入力し他の要素を掛け合わせた結果…成功率…わずか0.0024%」

「これはラル・ミルチとエミさんの戦力も含めて高く見積もった数字です…他の要因による補正も考えられるがどれもこれもこちらに旗色の悪いものばかりだ」

「ま、そんなもんだろうな」

「ちなみにヴァリアーは成功率が90%を超えなければミッションを行わないと聞きますが?」

「えぇ。まぁ本部の連中の成功率試算が30%以下のものでもうちのデータで割り出せば90は超えるわ」


90%を超えるよう人員配置をするし超えるように事前準備も欠かさない。
暗殺だけしている部隊だと思われがちだがそういうわけでもなく、最終結果が「暗殺」だとしてもその前に潜入捜査をしていたり地味な張り込みをしていたりもする。

90%まで自分達で持ち上げているというわけだ。


「奇跡でも起きなければ成功しない数字か…沢田達には黙っておけ。士気に関わるぞ」

「今更ショックを与えても他の選択肢はないのだしな…」

「ってより無意味な数字だな。完成されたプロなら戦闘力や可能性を数値化することに意味があるだろう。だが、伸び盛りのあいつらを計算に当てはめるなんてバカげてると思うぞ」


綱吉達の可能性に驚かされたのはついこの間の自分達だった。
ただの中学生だと思っていた連中に、一対一の対戦で敗れたのは数ある暗殺部隊の中でも一番だと言われていたヴァリアー。

そして最終戦でもあった大空戦。

10代目に最も近いと言われていたザンザスがただの中学生に負けた。


「数値化できねーところにあいつらの強さはあるからな」


何者にも染まっていない純粋さというのは、何を飲み込み吸収していくのか分からなくて怖いなと私は思うのだけど、そんな未知数の彼らに賭けることしかできないここにいる大人達もまた彼等にとっては怖い存在なのかもしれない。




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