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笹川兄が持ってきたのは今度乗り込むっていう敵のアジトの地図みたいなものだった。
地図とか読むの苦手だし見ててもよくわかんなかったんだけど、ツナが夢で見たっていう丸い装置に何かあるんじゃないかってことで話がまとまった。


「よし山本!オレ達は修行を再開すんぞ。今んとこお前が一番遅れてるみてーだ」

「ん!ああ!オッケ!」


小僧はやっぱりすげえ強かった。
スクアーロみたいに肌にビリビリと刺さるような刺激を放つわけじゃないんだけど、俺の考えや身体の動きなんてのは全部見透かされている感じがするし、まだまだ本気なんて見せてないんだなっていうのもわかる。
あんなに小さいのにその余裕は一体いつどこで手に入れたもんなんだろ。

きっとそれも、小僧がアルコバレーノになった日っていうのに関係がある。

それがどうしても知りたいってわけじゃない。ただ教えてくれるっていうならまぁ聞こうかな?ってくらいで。
ただ聞いたらもう後戻りできないんだなとも思う。

流石にもうごっこ遊びだなんて思ってないし、でもまだどっかでその延長線上にいたいと思ってる。
片足を踏み込んだら後戻りできない世界なんだってのはなんとなくわかるし、遊びで踏み込んでいい世界じゃないのもヴァリアーの奴らなんかを見てたらわかるしな。

だからもう少しだけ、何も知らない俺でいる。


「こいつを解禁するぞ」

「剣帝への道…?」


小僧が取り出してきたのはなかなか量のあるDVDボックスだった。


「剣帝って確かスクアーロがヴァリアーに入る時に倒したっていう?」

「よく覚えてんじゃねーか。そうだぞ。剣の帝王と恐れられたザンザスの前のヴァリアーボス、テュールのことだ」


エミさんの父親だ。

リング争奪戦の時すっごい驚いたからよく覚えてる。驚いたっていうか理解できねーなっていうのかな?
別にスクアーロが今更誰を倒してても、誰を殺していたとしても驚かないしそういう職業なんだろ?だから軽蔑したりとかはないんだ。
ただ、父親を殺した奴と一緒にいるっていうのはどんな気持ちなんだろうなって不思議に思う。

俺はこの時代にきて親父がミルフィオーレの奴らに殺されたことを知って、初めて人を殺してやりたいって思った。
もちろんそんなことをしたって親父が帰ってくるわけじゃないし、誰も喜ばないことも知ってる。分かっちゃいるけど、そういう考えが頭をよぎるのは仕方がないことだと思う。


本当にやるかやらないかは別として、そういう感情が一瞬でも沸かねえのかなって思うんだ。

スクアーロはエミさんのこと大事に思ってるっぽかったし、エミさんもスクアーロを憎んだりはしてないんだと思う。ふたりにはふたりにしか分からないなんかがあんだろうけど、俺には理解できそうにない。


鮫に喰われたスクアーロを助けに行こうとしてたって後から聞いた。
結果的にディーノさんが助けてくれてたけど、それがもし間に合っていなかったら。俺はスクアーロを殺しちまってたかもしれなくて、翌日の霧戦の時のエミさんは別にいつもと変わらないように見えたけど、やっぱりその目は確実に温度を失っているような気がして目を逸らしてしまった。


気になるのに近づけない。

エミさんはそういう人だ。

あんまりこっちにもいないし、このアジトのどっかで修行してるらしいけど、誰に指導を受けるわけでもなくひとりでやってるんだって獄寺に聞いた。


「じゃじゃーん。剣帝への…」

「ちょっとちょっとストップゥ!!なんなのそのやる気のない声!」

「だって…」

「スクちゃんのやる気が下がっちゃうわよ〜?」

「こんなことで下がるくらいのやる気なら私が先にへし折る」

「もう!!」


DVDのタイトルを棒読みで読み上げようとしたのはエミさん、そしてそれを止めたのがルッスーリアって奴の声だ。


画面越しでも伝わるスクアーロの殺気。
ぞくぞくする身体。
挑発的な目は獣って感じで、でもすっごくイキイキしてる。剣を振るうことが楽しいって身体全体が主張してんだ。

小僧は3日後にまたくるって言っていなくなった。
ひとりきりの部屋にスクアーロの雄叫びと剣同士がぶつかり合う金属音だけが響く。
時々、ルッスーリアやエミさん、ベルフェゴールなんかの声も聞こえてきたりしてヴァリアーって仲良いんだなって思った。

エミさんの顔はほとんど映らなかったけど、一瞬スクアーロの戦いを見つめるエミさんの横顔が抜かれた時があった。その目は真剣で、スクアーロのひとつひとつの動きまで目に焼き付けようとしているようだった。微動だにせず、ただひたすらに目の前の戦いを見つめている。


その表情からは何を考えてんのかまで分かんなかったけど、真剣なんだなって思った。


スクアーロの必殺技、鮫特攻〈スコントロ・ディ・スクアーロ〉は、剣帝を倒した時の技だって言ってたっけ。
受けたことがあるから分かる。
空気を抉るように突き進んできたスクアーロを止めることなんてできなかった。


俺は多分、剣士にもなりきれてないし、ただの中学生と呼ぶには物騒なもんを振り回す奴なんだと思う。
中途半端。
それが一番今の俺には合ってる言葉な気がする。




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