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「そういえば歴代のボスの中にザンザスにそっくりな人がいたんですよ」


廊下で立ち止まっていた綱吉に声をかけたのは気まぐれだった。
彼ならきっと5日後の作戦は決行するだろうと思っていたし、どちらにしても戦力面でのマイナスは埋まらないのだとすれば、全世界規模で行われる作戦にタイミングを合わせる以外になかった。



「2代目ね、きっと」

「みんな怖そうだったけどあの人は特に怖そうだったな〜」

「睨まれでもしたの?」


その時のことでも思い出しているのだろうか。
綱吉は随分と苦い顔をしながら天井を仰ぎ見る。


歴代のボスの肖像画はイタリアの本部に飾ってあった。
それに祈りを捧げたりするようなことはなかったけど、あの部屋はやはり少しだけ他とは違う雰囲気があったし、動くことのないはずのボス達に中身まで見透かされているような気分になるので私はあまり好きではなかった。

ただザンザスは違ったようで、本部で過ごしている間はよく行っていたらしい。
10人目のボスとしてその部屋に自分の顔が飾られるのを想像していたのか、はたまた歴代のボスのようになりたいと憧れたのか。
ザンザスは「あそこが1番静かだっただけだ」としか言わなかったけど、あの部屋で何を感じ何を思い描いていたのだろう。

2代目と自分は似ているななんて思ったことが一度でもあったのだろうか。


「……あ!ランボだ」

「なんかこっち見て怯えてるわよ」

「あーちょっと叱っちゃって…。」

「いいものあげるわ」


先程リボーンがやってきてくれた飴玉。
くれるというので受け取りはしたが、たぶん私が持っていたままじゃいつまで経っても食べなかったと思う。せっかくなら美味しく食べてもらえる人のところへと行ったほうがこの飴玉も嬉しいだろう。


可愛らしい笑い声が響いていた。







「ならば拳と匣を交えるまでだ!」

「僕は構わないよ」

「極限に止めるもの何もなし!!」

「いいえ、さっきから私が止めてます!くだらない理由で守護者同士がバトルなどやめてください」

「………何してるの?」



雲雀のアジトへと戻ってきたエミの前では、闘志に燃える笹川と雲雀、そして困り果てた草壁がいた。

襖の前にはランボとイーピン。

この子達が勝手にここまで来ることはないので、大方笹川がこちらまで連れてきてしまったんだろう。
その証拠に、彼は子供達の入室の許可を取ろうとしているようだが、既に連れてきてしまっているので遅いような気がしないでもない。


「オレは屋敷に入れるのにチビ達は出入り禁止とはどーいうことだ!」

「本当は君だって入れたくないんだ。君を見てると闘争心が萎える」

「何を!極限にプンスカだぞ!」

「雲雀の闘争心を無くせる人がいたのね」

「エミさん、感心してる場合じゃありませんよ」


いや、でもあの雲雀恭弥の闘争心を萎えさせるって相当すごいことだと思うけど。
今はどうだか知らないけれど少なくとも10年前の、まだ中学生の彼は闘争心剥き出しの戦闘狂だったから。
相手をしてやってもきっと喜んでかかってくるし、軽くあしらっても御構い無しにかかってくる。そんな雲雀恭弥でも「萎える」ということがあるということに驚いた。


「エミさん、私は向こうのアジトでこの子達と遊んできますので、二人が真面目に話し合いをするように見張っててくださいね。お願いしますよ!」

「…だ、そうだけど?」

「ならば1ラウンドだけ」

「僕は構わないよ」


構わないと言いながら座布団に座り始める雲雀を見て、笹川も漸く大人しくなった。
話し合いとやらがあるらしい。席を外そうとした私を止めたのは雲雀ではなく笹川の方だった。
こういう、私をこの時代のエミとして扱うところが苦手だ。どうしていいか分からなくなるし、申し訳ない気持ちも生まれてくる。なにより、真っ直ぐな気持ちが擽ったいというのもあった。


「見て」そう言って雲雀が寄越してきたのは一台のノートパソコンだった。
表示されているファイルは何かの図面のようなもの。

本日午後2時頃までの間に、この図面を含むいくつかのファイルが雲雀のサーバーへと送られていた。送り主は不明。だが、雲雀には心当たりがあるようで、何故か不機嫌だった。


「ミルフィオーレのアジトの図面だよ」

「敵の罠って可能性は?」

「ここのサーバーはそう簡単にアクセスできるものじゃない。」

「これで少しはマシになったか!」マシというのは間近に迫った作戦のことだろう。
確かにこれが本当にミルフィオーレのアジトの図面なのだとしたら、無駄な時間を使うことなく主要施設までたどり着けるし、あらかじめ作戦を立てておくのにやはり地図というのは必要不可欠だった。


「うむ、沢田達に報告して作戦を練るとしよう。お前達もこい!」

「いやだ」

「なにぃ!?お前って奴は!」

「僕は君たちと群れるつもりはないよ」


話はこれで終わりとでもいうように、閉じた瞳を開けようとしない雲雀。
そんな彼を静かに見つめた笹川は「わかった」と一言告げて、ボンゴレのアジトへと帰っていった。


「いいの?作戦を頭に入れておかなくて」

「向こうには草壁がいる。問題ないよ。それに、向こうの作戦には加わらないからね」

「別行動するってわけね」

「驚かないんだね」


何をするつもりなのかは分からないけど、雲雀が綱吉達と共にミルフィオーレのアジトに侵入するという光景を想像する方が難しかった。
短期間ではあるものの過去の恭弥と10年後の雲雀恭弥を見てきた。彼は人に合わせたり、ペースを乱されたりすることは嫌いで、だからと言って全く協力するつもりがないわけではない。
協力するつもりがなければ毎日綱吉の修行に付き合ったりはしないはずだし、ミルフィオーレに関して調べたりもしないだろう。

彼は彼のしたいようにではあるが、協力している。
だから今度の作戦もきっと彼なりの方法で参加するつもりなのだ。


「自己犠牲がすぎるね」

「……………」

「なに?」

「いや、10年後の君に同じことを言ったなと思っただけだよ」


未来のわたしも雲雀恭弥も自分のことを犠牲にしているとはこれっぽっちも思っていないのだろうけど、そういうところは雲として似ているのかもしれないと思った。



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