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「こんなところに立ち止まってどうしたの?」

「あ、エミさん…」


クロームの容態が急変したのはついさっきのことだった。
元々クロームは事故で内臓のいくつかを欠損していて、骸がその内臓を幻覚で補って生きている。そして復讐者の牢獄に幽閉されている骸が外の世界と繋がることができるのがクロームの存在だと俺は思ってる。

術師のあれこれは正直何度聞いたってファンタジー過ぎて分からなかったし、骸は特に謎が多すぎる。ただ1つ分かってるのはクロームと骸は別々の人間だけど、お互いがいないとこの世に成り立たないってこと。

そのクロームの容態が急変して、骸が作ってくれていた内臓がなくなっていたってことは、骸に何かあったんだ。この時代の骸は未だに復讐者に捕まっているみたいだけど、あいつの特殊な能力のおかげで外と繋がる手段はたくさんあるみたいだ。
ヴァリアーやお兄さんへの指示もかなり一方的だったみたいだけど確かに骸からのもので間違いないらしく、その通り動いた結果過去のクロームを見つけ出すことができたんだよね。

クロームは今、自分の内臓を自分で作り出して生きている。常に幻覚を作り続けなきゃいけないってことなんだよね。俺にはそんな力はないから慣れればどうってことないものなのか、それともやっぱり常に力を使うっていうのは大変なものなのかすらも分からないけど。あんな状態のクロームはやっぱり連れていけない。


作戦は決行することにした。


勝ったり負けたりなんていう次元じゃないんだってことも分かってるし、敵のアジトに乗り込むんだから失敗したら何をされるのか、そんなことも言われなくても分かってる。
だけどこの世界を、こんな世界にしてしまったのはミルフィオーレファミリーだし、こんな世界に過去の俺たちを巻き込んだのも入江正一と白蘭の仕業なのは分かってるんだ。
それにラルが言ってた。コロネロもバイパーもスカルもみんなミルフィオーレにやられたって。
リボーンだってきっと、10年バズーカに当たった時にやってこなかったってことはそういうことなんだろ?

ラルはあんな身体で仲間の仇を打とうとしてる。
自分だけ生き残ってることに苦しんでる。

ラルもクロームも、京子ちゃんやハルだってこんな世界は似合わないし、一刻も早く平和な並盛に帰してやりたいんだ。


「5日後やるのね」

「あ、はい。エミさんも参加するんです、よね?」

「当たり前じゃない。何のために未来の私がここにきてたのよ。それに比べればだいぶ戦力は落ちるだろうけど、貴方達を無事過去に帰すためにーー」

「俺たちだけじゃないですよ!」


思わず大声を出してしまった俺に、驚いた顔をしたエミさん。
エミさんだって過去からこの時代に連れてこられた被害者なのに、どこか俺たちとは違うところを見ているっていうか当事者じゃないっていうか。うまく説明できないけど、エミさんの帰りたいとか生きたいとかそういうものを感じない。


「エミさんも帰るんですよ」

「ふふふ、そうね」


ちゃんと俺の言いたいこと伝わってるのかな?
曖昧に流されたような気がするけど。でもヴァリアーの副隊長してる人だし基礎的な戦いは俺たちなんかよりも数段上のレベルなんだろうし、未だにエミさんがちゃんと戦ってるのって見たことないけど弱いわけがないんだろうなってのは何となくわかる。ただやっぱり凄い人過ぎて俺なんかには伝わらないのかもしれないけど、人間味っていうかエミさんが本当は何を思ってるのかって分かりにくいんだよな。


「ねぇ、雲雀の球針態の中で何を見たの?」

「え?」

「俺がボンゴレをぶっ壊してやるー!って言ってたじゃない?」


あの中で見たのはボンゴレの歴史。それでも多分ほんの一部なんだろうな。いつの時代のものなのか分からなかったし、もしかしたら今だって同じような悲劇が繰り返されているのかもしれない。
いや、暗殺部隊が存在しているんだからそういうことだよね。

ボンゴレが行ってきた酷い行いを忘れてはならない。

そう、言われているような気がした。

もちろん過去のこととしてだんだんみんなの記憶からなくなっていつか忘れ去られてしまうものだとしても、その事実が消えて無くなるわけじゃないし、忘れましたなんて軽々しく言ってはいけないものだと思うんだ。多くの人達の涙と血が流れて、悲しみと憎しみが生まれたのは紛れも無い事実だと思うから。そうしなければもっと多くの人の命が消えていたのかもしれないし、もっと多くの人が悲しみに包まれたかもしれない。でも結果なんてどうでもよくて、俺たちはそういう過去があったっていうことを認める必要はあるんじゃ無いのかなって思うんだ。


だけどそれを未来に引き継ぐなんて俺はしたくない。

業に縛られて業を守るようにして生きていくボンゴレはここで終わりにしなくちゃいけないんじゃないかって思ったからあんな言葉が出たんだけどさ。ほぼ無意識だったからあんまり深く考えてないんだよね。


エミさんやザンザスは暗殺部隊。

きっと誰よりも業を背負ってきた部隊だと思うし、これからもその業は増えていくんだと思う。
それがザンザス達の仕事で彼らはそれに誇りをもっているんだと思うから言わないけど、いつか暗殺部隊がいらない世界になったないいなって思うよ。






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