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暗殺部隊ヴァリアーからの画像データのほとんどは、スクアーロとベルフェゴールの戦闘しか映っていなかった。
一方的に怒鳴り散らされ、いい歳した大人の子供のような喧嘩を見せられ、そして突如終わったヴァリアーからの通信に、ため息をついた大人達と、知った顔が見れて少し嬉しそうにしている子供達。

ベルフェゴールの言うわかりやすい指示というのもすぐに判明することとなった。


「笹川了平 推参!!!」


晴の守護者笹川了平は、過去からきたクローム・髑髏を抱えやってきた。
黒曜ランドのリング反応はやはりクロームのもので間違いはなく、その場に居合わせたミルフィオーレファミリー幹部のひとり、グロキシニアと戦ったらしい。

いつこの世界にやってきたのか。黒曜ランドにひとりでいたというクロームは、ここがどのような世界かもわからぬまま、そしてリングでの戦い方もわからぬままこうして生きてこのアジトまできたのだから大したものだ。


笹川はこの時代の綱吉の指示でヴァリアーへと足を運んでいたが、その最中に綱吉が討たれ、世界各国でボンゴレ狩りが始まった。ヴァリアーにもたらされる情報は、確かな情報筋からのものであり、それゆえに疑うこともできずヴァリアーやボンゴレ本部も少なからず動揺していたようだった。

帰国後、黒曜ランドに寄ったのもヴァリアーからの指示で、そこでクロームと合流する予定だったのだが、実際に其処にいたのは幼い姿のクロームだった。ヴァリアーがそしてヴァリアーへ情報を流した者がこの現象のどこまでを把握しているのか。謎は深まるばかりである。



「ここにいる10代目ファミリーへの指示は、5日後にミルフィオーレ日本支部の主要施設を破壊することだ」

「…急だな」


ボンゴレと同盟ファミリーのトップで決めた大規模な作戦は、各国同時襲撃だった。そしてこの世界にボンゴレリングと共に過去からやってきた綱吉達がいると仮定して日本支部の破壊を命じられたということは、本部もやはりリングの力と10代目の守護者達の実力を認めているということになるのだろう。


「5日後ってすぐだ…」

「だがこの機を逃すと、次にいつミルフィオーレに対し有効な手立てを打てるかわからんのだ」

「俺たちのアジトだって敵にいつ見つかるかわからんのだ。早くて悪いことはない」


今の段階で敵のアジトに殴り込みを仕掛けるのは不安が大きいが、世界で同時にミルフィオーレへと攻め込むのであればやはりこの機を逃すわけにはいかない。増援がくることもなく日本支部にいる者だけを相手にできるというのは、戦力に欠ける綱吉達にとっては少なからずプラスに働くだろう。


「でも…なんか…こんなマフィアの戦争みたいなのに参加するって…俺たちの目的と違うっていうか…」

「何言ってるのよ。あなたマフィアじゃない」

「正論きたー!」

「目的は入江正一を倒すことだろ?合致している!」


綱吉は納得がいかないような顔をしていた。


リボーンから課せられていた守護者集めとやらも、笹川とクロームがやってきたことでクリアした。
過去の自分と入れ替わっていない晴、雲のボンゴレリングは未だに揃ってはいないが、彼らならボンゴレリングがなくても充分な戦力になる。


ここのことは綱吉が決めるべきだとして、作戦参加の決定権を綱吉に委ねた笹川は、綱吉が断ることはないだろうということもわかっているのだろうか。

作戦決行を先延ばしにしたところでやることが変わるわけではないし、逆にここを突き止められれば攻め込まれることも十分考えられる。ここに攻め込まれようものなら数分でかたがつくだろう。


「そういえばおまえ………、なんか雰囲気が違くないか?」

「アホか芝生!どう見ても10年前だろうが!」

「お前もか!?…困ったな」


今更ながらエミが入れ替わっていると知り、少しだけ頭を悩ませた笹川は「頼まれたものは仕方がない!」とスクアーロからの伝言を伝える。


「日本支部破壊が完了したらイタリアへ帰ってこいとスクアーロ作戦隊長からの言伝だ!俺は確かに伝えたからな!」

「残念だけどあなたが伝える相手は私じゃなくて10年後のエミよ。よって作戦隊長殿の命令には従えません。」

「これは命令などではないぞ!あいつはただお前が心配なだけだ!」


それは、違うと思う。

スクアーロが心配してくれているかどうかは別としても、その相手は自分ではない。だってスクアーロは私が入れ替わっていることを知らないのだから。そんなことを考えていると大きな手が頭上に降ってきた。
視線をあげると太陽のような笑顔の笹川は、妹にしてやるようにポンポンと頭を撫でてから自信満々に言い切った。


「今!この時代に!存在しているのがお前なら、スクアーロ達にとってのエミはお前だ!自信を持て!」

「………」


あまりにも力強く、そして自信満々だったものだから、何も言い返すことはできなかった。何を言ったところで、きっと彼にはうまいこと伝わることはなく笑い飛ばされそうだけど。
そんなエミを見て満足したのか部屋を出ていった笹川。それを慌てて追いかけたのは草壁だった。きっとこの時代の彼らにしかわからないような話でもあったに違いないが、そんなことはどうでもいいくらい頭の中で笹川の言葉が響いていた。


「あの人いいこと言ったって顔してたわね」

「でもこの時代のエミさんも言ってましたよ!ここにいる限りこの時代で起きていることは俺たちの問題だって」


未来の自分はなんてことを言ったんだ。
言っていることは正論だし、如何にも自分が言いそうな発言だが、過去から未来へとやってきた人間の対人関係にも当てはまるのかと言われれば答えはノーだろう。

未来の自分の言葉で自分の首が締まるとは思わなかった。


そもそも日本支部の破壊が成功したら、入江正一を捕まえて過去に戻れるようにさせるのだから、どのみち私がイタリアへ向かうことはない。
イタリアに向かうのは、元に戻ったあとの私だ。

ごめんなさいね、スクアーロ作戦隊長。





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