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今朝の朝食が手巻き寿司だった事で、雲雀の機嫌が少し悪くなった。
修行がうまくいっていない様子の獄寺を励まそうと、綱吉と山本が手巻き寿司でもてなしたそうだ。その差し入れという形でこちらにもやってきた手巻き寿司は、具が多すぎて閉まりきっていなかったり、酢飯があちこちについていたりと不格好なものが多かった。
「山本の実家はお寿司屋さんだったわね」
「えぇ、彼の作ったものだけまともな形をしていますよ」
「見た目はアレだけど美味しいわよ」
味付けを施すような料理ではない。海苔で包んで巻くだけのもの。見た目さえ気にしなければ美味しい手巻き寿司だ。しばらくしてから雲雀も「なんで朝から手巻き寿司なの」と文句を言いながらも、山本が作ったであろう綺麗な形のものを選びながら食べていた。
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「マークしていた男に動きがありました。これは沢田側にも情報提供しておいたほうがいいかと」
「確か写真があったはずだ」
「では、今から行ってまいります」
「あ、私も行きます。お寿司のお礼もしたいし」
相変わらず静かな廊下をボンゴレアジトに向けて歩んでいくエミと草壁。草壁の手に握られる写真が目に止まったエミに気付いたのか、草壁はこれから説明するであろう話を簡潔にだが先に教えてくれた。
「ヒバードの後ろに写っているフクロウが見えますか」
「なんか…目に六の文字…?」
「えぇ。我々はこれを六道骸の何かだと考えています。」
六道骸は霧の守護者に代わりマーモンを倒したという術士だ。エミはその男の顔を見ていない。ひどい幻覚汚染で早々に意識を飛ばしたのだ。最後に見たのは確かクローム・髑髏が倒れているところだった。
エミはマーモンのことをアルコバレーノということを抜きにしてもとてもすごい人物だと思っている。術士の作り出す世界は到底自分には真似のできない代物で未知の世界。知らないというのはとても怖いもの。
加えて幻覚にかかりやすい体質だと分かってからは、戦場で術士には出会いたくないと思った。術士に出くわしたら最後、エミに対抗する手段がない。
「あははは、ヴァリアーの方でも苦手分野はあるんですね」
鳥肌が立った身体を抱え込む仕草をするエミのことを草壁は楽しそうに笑った。
作戦会議室にはすでに戦闘要員が集結していた。
過去からきた中で唯一ボンゴレアジトではなく、雲雀の研究施設に身を置くエミは、訓練以外でこちらに来ることはほぼない。過去から一緒にやってきているという女の子たちと子供たちとは顔も合わせていないし。それでいいと思う。
昨日姉から逃げ回っていたところを見られたせいか、目があった獄寺はスーッと視線を逸らした。そういうことをされると話しかけたくなるのは仕方がないことだと思う。肩を叩き「昨日は、お疲れ様」とあえて強調して話しかければぎゃいぎゃいとうるさく吠える犬みたいでからかい甲斐がある。騒ぐたびに揺れる獄寺の銀髪が、スクアーロと少し似ている。
「エミさんも話を聞きに?」
「情報は多いに越したことはないしね。それと手巻き寿司ごちそうさま」
「あぁ!あれは山本が…!」
エミと目が合った山本は笑ってみせただけで特に何かを言うわけでもなく、その爽やかな笑顔がぎこちないのもエミにとっては今に始まった事ではなかった。
「そろそろいいですか?」
草壁が話し出したのは六道骸について。
復讐者の牢獄に捕まっているはずの六道骸は、彼の持つ特殊な能力を使って度々外の世界とコネクションを取っている。
行方不明のクロームと密会していた男も骸の何か、そしてイタリアの地で雲雀が幾度も不愉快な視線を感じたと言うのがエミが見せてもらった写真のフクロウである。フクロウの視線を感じた雲雀も雲雀だと思うが、もし仮にこのフクロウに六道骸が憑依していたとしたら彼の能力はとてつもないものである。
多数のコネクションを利用し、復讐者の牢獄の中から何かをしようとしているのは明らかで、しかしそれがこちらの有利に働くのかは測りきれない部分があった。
ヴーッ!
「!!一瞬ですが、強いリング反応が!黒曜ランド周辺です」
「黒曜ランド!?」
「ただしこの辺りは電波障害がひどく、誤表示の可能性も高いです」
「…きっと仲間だ…ボンゴレリングを持ったクロームかも……」
綱吉の超直感は本人の知らないところで鋭さを増している。いつもあたふたしているだけの綱吉が、ボソッと呟くそれが実は核心をついていることは最近ではよくあることだった。きっとこれは誤表示でもなんでもない。この場で守護者とリボーン、そしてエミだけがそれを感じていた。
「やはりデータ不足ですね」
「どうしよう…もしクロームならこんなことしてる場合じゃ……」
ヴーッヴーッ
「緊急暗号通信です!」
リング反応とは別に再び警報が鳴り響く。
モニターに並ぶ無数のコンマは、隠語としてよく使われる記号で、切り落とした頭を指す。
画像データの受信ということは予め撮った映像や画像の類を受け取ったということなんだろう。
「う"お"ぉおい!!!」首の皮は繋がってるかぁ!?クソミソカスどもぉ!!!」
「10年後の…」
「「スクアーロ!!…あ…」」
モニターに映し出されたのはスクアーロのドアップだった。思わず名前を叫んだのはエミだけではなく、何かとスクアーロのことは気になる様子の山本とガッツリとハモった。
10年後のスクアーロは相変わらずの大声で、ボリュームを下げろと怒鳴るラル・ミルチの声を掻き消さんばかりだ。髪は相変わらず伸ばし続けているようで、そんな変に真面目なところも変わっていなくてエミも自然と笑顔になった。
「いいかぁ?クソガキどもぉ!今はそこを動くんじゃねぇ!外に新しいリングの反応があったとしてもだぁ!」
「黒曜ランドのことだな」
「じっとしてりゃわっかりやすい指示があるから、それまでじっとしてろってことな!お子様達」
「う"お"ぉい、てめー何しにきた!」
「スクアーロだけずりぃじゃん。これエミも見んでしょ?王子からもメッセージ…」
「口出すとぶっ殺すぞぉ…!」
「やってみ」
スクアーロの背後からひょっこりと顔をのぞかせたのはベルフェゴールだった。彼もまた相変わらず頭にティアラを乗せていて、スクアーロの仕事の邪魔をするのが好きなところも変わっていないようだ。少し、大人っぽくもなっているような印象も受けるが、モニターの中で繰り広げ始めた戦闘という名のお遊びも、今と何も変わっていない。
「エミ!ひと段落したら1回帰ってこい!クソボスの機嫌が…」
「しししっ、寂しいだけだろ」
「…殺す。」
ぶちんッ、
「切れた…」
「あいつらエミが入れ替わってるの知らねーのか?」
「…いいのよ、知らなくて」
スクアーロの言ったひと段落とはどの段階のことを指すのかすらもわからなかった。
あの言葉は、ここにいるエミに向けられたものではなく、ここにいるはずだったこの時代のエミに向けたものだ。
変わることなく騒がしくやっているのならそれでいい。今の自分がイタリアへ行ったところで、指輪に炎を灯すこともできないとなれば一瞬で死ぬだろう。ヴァリアーはそういう危険と常に隣り合わせで、足手纏いを抱えている場合ではない。
全て終わらせて、この時代のエミをヴァリアーの元へと返してあげる。
知らない世界
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