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「はぁ、っはぁ、何処まで追いかけてくんだよクソ姉貴っ!」

「……隠れ家なら他当たってくれる?」

「……………んな!?!?」


急に声をかけたせいなのか、獄寺隼人は目を見開いて固まった。
確か彼の指導には姉が付いていたはず。息を切らして走り回っているこれも修行の一環なのだろうか。


「おまえここで何してんだよ?」

「何って、修行だけど」

「おまえなら修行なんかしなくても十分強いんじゃねーのか?ヴァリアークオリティがなんたらかんたらで」

「あのね、誰がつけたか知らないけどうちの隊員たちが何もしてないだなんて勘違いはやめてよね。ザンザスだって射的場にはほぼ毎日顔を出すわ」


ヴァリアーはエリート集団だなんて呼ばれてはいるけれど、生まれ持った才能だけでやっているわけではない。みんな任務のない時間帯は体づくりに当てているし、新人のほとんどは初任務に出るまでずっと過酷な修行をさせられる。ヴァリアーに入るだけでも相当ふるいにかけられるが、本当に大変なのは入った後だったりするのだ。
初任務を経験する前に脱落する人も少なからずいるくらいだ。

幹部だって遊んでそうに見えて体づくりは欠かさないし、そもそも任務自体が難易度の高いものであることが多いからそれすらレベルアップの踏み台になっている。

そういうところをひた隠しにするのがうまい人達だと思う。


「獄寺の覚悟って何?」

「な、なんだよ急に…」

「私覚悟ってやつがイマイチよく分からなくてね。そんなんだから、ほら…ヴァリアーリングに炎が灯らないのよ」


私の指にはめられたヴァリアーリングをまじまじと見つめて、それから溜息をつきながら壁際に腰掛けた獄寺の目の前にしゃがみ込む。

獄寺の指には嵐のボンゴレリングがはめられている。ベルと奪い合って一時は嵐戦の勝者ベルの物になった指輪だ。獄寺はあの時、命に代えてもこの指輪を勝ち取ろうとしていた。そしてそんな獄寺を叱咤したのが綱吉だった。結果、嵐のボンゴレリングは今、獄寺の指で光輝いている。

目線の高さで握られた拳から赤い炎が溢れ出す。


「俺は今も昔も10代目の右腕として頼れる男になるだけだ。」

「それ炎出すときに念じてるの?」

「…………おまえ、そんなにバカっぽい奴だったっけ?」

「失礼ね。真面目に質問してるんだけど。」


初めて炎を出した時は、確かに似たようなことを思ったらしい。その後は意識せず炎が出るようになったという。やっぱり何か覚悟というものを明確に心の中で捉えた時それが炎になるんだろうか。

そういえばここにくる前、意志はないのかと雲雀に言われた。何も答えることができなかったのは、全くその通りだったからなんだと思う。
いつも誰かの背中ばかりを追いかけてきた。
私の中の副隊長はいつまでも母様で、その背中を追いかけている。追いつくことも追い越すこともないだろう。母様はもういなくて、その背中を見ることは叶わなくて、記憶の中の母様はやっぱり私の自慢だった。記憶の中だからこそ、その距離が縮むことはなく一定の距離を保ちながら近づくことは決してなかった。


「ソレを持ってるってことは、この時代のお前は雲なんだな」

「それはボンゴレの守護者の話でしょ?私は別に孤高の浮雲とかじゃないけど…」


どちらかと言えば誰かの背中を追いかけてついていく雛鳥のようだと思う。ザンザスの夢見た世界をその後ろから夢見ていた。スクアーロ達がザンザスの隣を歩んでいるのだとしたら、やっぱり私はその後ろなんだと思う。争奪戦の時にリボーンに言われた「置いてけぼり」は、今でもちょっとゾクっとするくらい自分にぴったりだった。


「お前が雲であることを認めない限りそのリングは答えないと思うぜ。まぁ俺も偉そうなことが言える修行の出来じゃねぇけどな。ただ俺はボンゴレの、10代目の嵐であることに誇りを持ってる!」

「何よ、お姉さんから逃げてるくせに生意気ね」

「んだとこら!人がせっかく…!」

「でも、ありがとう。」


争奪戦の時、私は雲の守護者の立場から結果的に逃げてしまった。守護者ではなくヴァリアーの副隊長であることを選んだからだったけど、ヴァリアーのボスがザンザスじゃなかったとしたら私は副隊長をしているだろうか。結局は、ザンザスのいるヴァリアーという場所が居心地が良かっただけなんだ。

あの時、守護者になることから逃げた私が10年後雲のヴァリアーリングを与えられている。

その意味と、私の覚悟を見つけないと。


知らない世界


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