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「う"ぉおおおおい!あいつ日本に行ったって本当かぁ!?」

「嘘ついてどうすんだっつーの。」

「俺に挨拶もなしにかぁ!?」

「その隊長の偉そうなところが嫌になったんですきっとー」

「エース君に会いに行ってんじゃないの?邪魔すんなよしししっ」


いってきますの言葉はなかった。

いつも誰かを送り出すときは「いってらっしゃい」と言い、帰ってきた者に「おかえりなさい」と微笑む。

そう言う決まりがあるわけじゃないが、いつしかそういうものになっていた。


ここは帰る場所であり、ここで帰りを待つ者がいる。


そのことが残酷な暗殺者たちにとって、どれほど胸温まり気恥ずかしいことであるかは言うまでもない。


ーイタリアー


2日前、ボンゴレファミリー10代目ボス「沢田綱吉」が、敵対するマフィアとの交渉の席で射殺された。
それに合わせて各地でボンゴレの主要施設と、関係者への襲撃が始まった。

たった2日で本部はほぼ壊滅

ボスの座を退いた9代目も消息を絶っている。


特殊暗殺部隊ヴァリアーも襲撃を受けたが、非戦闘員ですらそれなりのスキルを持つ殺しのスペシャリスト集団はなかなか手強かったようで、今のところは落ち着いたと言っていいだろう。


作戦隊長であるスクアーロは、機嫌が悪かった。


ここにはいない副隊長への小言が頭の中で爆発しそうなくらい機嫌が悪かった。


「だいたい日本から守護者が向かってるはずだぁ!エミが日本に行く意味がわからねぇ!」

「もう!スクちゃんに伝えたらうるさいからって言ってたわよ〜?図星ねぇ。」

「こっちの状況伝えんのと、向こうの様子見も兼ねてんだろ。そんくらい分かれよ作戦隊長〜」


言われなくてもそれくらい分かってる。

日本からくる守護者を待たずして旅立ったのも、時間のロスを少なくする目的と日本の立て直しの為だろう。


「だからって……一言あってもいいだろうがぁ!!!」







「………っ」

「どうかしたかい?」

「いや、寒気がした。海の向こうでうるさいのが騒いでる気配を感じる。」

「気のせいじゃないだろうね。何も言わずにきたんだろ?僕のところへ。」


にやりと人の悪い笑顔を浮かべたのは、風紀財団トップの雲雀恭弥だった。今日の雲雀は機嫌がいいらしい。


「君は自己犠牲がすぎるね。」

「そうかしら?恭弥も似たようなものでしょ?」

「君のそれと僕のを一緒にしないでよ。」


並んで歩く2人の一歩後ろに付き従う草壁には、なんのことだかさっぱり分からない会話だった。
雲雀とはもうずっと共にいる。彼は言葉数が少ない上に、頭の回転が人より早いので、発する結論に辿り着くのに時間差が生じてしまうのだ。

それを補うために草壁は雲雀のことをよく観察して、何通りもの答えを用意し備えることで彼のことを少しずつ理解していったというのに。


たまにふらりと現れる彼女は、やはり波長というものが合うのか。雲雀とこうして意思疎通が取れるというのはなかなか珍しく、少し羨ましい気さえしてしまうのだ。

しかし、彼女は雲雀よりもさらに無口な人をそれこそ何十年も相手にして来ているのだから、なんの苦も感じないのかもしれない。


「恭さん、エミさん。ここからヘリと車を乗り継いで並盛に向かいます。」

「行けて隣町ね」

「そこまで行ったら十分でしょ」


今から向かう並盛町は、かつて青春時代を過ごした場所。
我々にとって、始まりの地であり、帰る場所でもある。

今でこそ忙しく世界中を飛び回る雲雀だが、始まりは小さな町の一つの中学校だったのだから。


守るべきは小さな世界





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