06


空中を自由自在に飛び回る綱吉の表情はどことなく硬く、不服そうな顔をしていた。
いつだってそうだった。彼の死ぬ気モードは何回か見たことがあるが、いつだって眉間にしわを寄せて目の前の現実を嘆いているような顔をしている。それはとても綱吉らしい思考回路だと思う。きっとできることなら戦いたくないと思っているに違いない。


巨大なムカデのような生き物が襲いかかってくるのを空中で器用に避けながら、時には避けきれずぶつかっている。その度にムカデを操る女性に怒鳴られ眉間のシワを濃くしながらも言い返すことはなく立ち上がる。あのムカデは匣兵器という炎を注入することで動くこの時代の戦闘アイテムだと隣の雲雀が教えてくれた。匣兵器は炎が切れれば動きを止め匣に戻っていく。


「訓練する気がないのならここに足を踏み入れるな!」

「今日のところは見学させてもらうよ。」

「…………おい、おまえ…」


こちらに背を向けたまま怒鳴った女性が振り返る。そして振り返った先にいたのが若いエミだったので、驚いているようだった。彼女のムカデは動きを止めて匣へと戻っていく。


「どうした、ラル」

「この間ぶりね、綱吉」

「おまえは………エミさん!?え!?10年前の!?エミさんも入れ替わっちゃったの!?」



ムカデが消えてようやくこちらに気付いた綱吉は死ぬ気モードだと口調までもが変わるらしい。額の炎が徐々に小さくなっていき、いつもの調子を取り戻してから盛大に驚いていた。
10年後の雲雀恭弥が妙に落ち着いているせいであまり現実味が湧かなかったのだが、いるはずのない自分を見て驚く綱吉のおかげでどうやら本当に10年後の世界にいるのだと納得した。


「何故お前まで入れ替わった!」

「何故と言われても…」


入れ替わりたくて入れ替わったわけではない。こちらが聞きたいくらいなのだから。バズーカが壊れているせいで過去に帰れないと説明があった。果たしてそうだろうか。壊れているのに次々と過去の人間を未来に送ることは可能なのだろうか。そしてこれからもきっと過去からこちらに送られてくる人物がいるに違いない。誰かが、何かの目的の為にバズーカを使っているのは明白だった。


「日本にきてすぐこちらに飛ばされたのよ」

「エミさん日本にいたんですか?まさかまたヴァリアーの襲撃…?」

「9代目の命で私1人で並盛にきたの。そして雲雀恭弥と中学校でたまたま会って戦闘に。」

「たまたま会って戦闘になるってどういうことなんですか?」


それは私が聞きたかった。


ため息をつきながら雲雀に視線を投げかけても小さく笑いが返ってくるだけで答えらしい答えはなかった。そもそも意味なんてなかったんだろう。
そこにいたから。なんとも物騒な話ではあるが戦闘狂としては十分な理由である。
もしかしたらあの場に私がいなければ10年後の世界にきていたのは雲雀恭弥だったかもしれない。
ここにまだ10年後の雲雀恭弥がいるということは彼はその後バズーカに当たることなく過ごしているということだろう。


「綱吉死んだんだって?」

「忘れかけてたのにー!!」

「ザンザスが聞いたら殺されるわね。」

「あっ、そういえばザンザス達は…!?」

「殺されずに、済んだところよ。」


無事を知った綱吉はホッとしたような顔をして小さく笑った。それをみた雲雀がすごく怪訝そうな顔をしたが今回ばかりは雲雀の反応の方が通常だと思う。きっと雲雀は相変わらず甘いなとか思ってるに違いない。私だってそう思う。

こうやって憎んだって構わない相手のことまで心配してしまうから死んだんだね。綱吉は優しすぎる。自分や友人に私達が何をしたのか忘れたわけではないだろうに、それでもこうやって受け入れる彼はまさしく大空だった。


「おまえ、戦えるのか?」

「失礼ですがどちら様ですか?」

「……チェデフのラル・ミルチだ。」


その名は聞いたことがあった。彼女も確かマーモンやリボーンと同じアルコバレーノではなかっただろうか。勝手にアルコバレーノというものは赤ん坊ばかりだと思っていた。
戦えるのかとはつまり戦力になるのかという意味だろうか。雲雀に聞いたこの世界の戦闘面での科学的飛躍は正直想像もできないし、自分が匣兵器を駆使して戦う姿も想像できない。


「この時代は炎が出せないと話にならないんでしょ?」

「まぁね。エミは綺麗な炎を出してたよ。」

「私が炎をね〜」


炎を灯しながら戦う人物といえば9代目と綱吉、そしてザンザスしか知らない。暖かなオレンジ色は夕焼けの色みたいでとても綺麗なのに少しだけ寂しさも感じる色だ。あのオレンジは大空の炎と呼ばれているらしい。ザンザスの炎はオレンジじゃない。それでもやっぱりヴァリアーにとっての大空はザンザスただひとりだし、9代目や綱吉の炎とは違う分かりづらい暖かさがある。


知らない世界


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