03


「まだ見つからないの」

「捜索範囲を広げているのですが…」


並盛中学の生徒から行方不明者が出ている。それもあの赤ん坊と沢田綱吉の周りの人間。
僕は基本的に誰がどこに消えたって構わないんだけど並盛の風紀が乱れるのは耐え難い。それに赤ん坊が関わることは面白いことが多いからね。何かに巻き込まれていることは確実だし並盛の風紀を乱す奴は何者だろうと許すつもりはない。あの草食動物は普段はウサギよりも弱いくせに時折牙を見せる。


「うおおおおおお!ヒバリィー!京子はまだ見つからんのかー!?!?」


うるさい。声量が無駄にでかい。暑苦しい。
笹川了平の妹も何日か前から行方不明だ。これもきっと同じ事件に巻き込まれているんだろう。応接室へと駆け込んできたかと思えばこちらの返事をろくに聞きもせずにまた何処かへと走り去って行った。







「誰。」

「……流石、エース君。気付かれるとは思ってなかったわ。」

「君は………………なんとかの副隊長」

「ヴァリアーね」


並盛を見渡せる屋上には部外者がいた。名前なんてどうでもいいから覚えていなかったけど、それの副隊長がそこにいた。屋上に足を踏み入れた時は人の気配なんてしなかったのに。そもそも校内は立ち入り禁止で特に今は警戒態勢をしいているにも関わらずその人は涼やかにそこにいた。


「何の用。」

「9代目からの命でちょっとね。」

「あぁ、草食動物達のことか。」

「草食動物?」

「沢田綱吉」

「あぁ、うまいこと言うね」


この間この人達の組織の連中は沢田綱吉を狙ってイタリアからやってきていた。後継者争いだなんてくだらない。僕だったら他人から奪った地位なんてものには興味がわかないね。他の誰かでも代わりが効くようなものに興味はない。僕は僕のやりたいようにやりたいことをするまでだ。だから心底くだらない戦いに僕の学校が巻き込まれるのは嫌だったんだけど、壊れた箇所はもちろん脆くなっていた部分も含めて向こう持ちで修復させたからこの件は水に流したよ。

ヴァリアーの連中は当分は謹慎処分になるだろうって聞いてもいないのにあの人が報告して行った。本当はマフィアとかボンゴレとか指輪とか興味もないし関係もないんだけど、イタリアに帰る前にどうしてもってうるさいからとりあえず好きなだけ喋らせておいた。話が長くてあんまり聞いていないけど、草壁が熱心に聞いてたから何かの間違いで興味が湧いたら聞くかもしれない。いや、あいつに教えられるのも癪だからその時は自分で探る。


「何も手がかりはないよ。」

「…そう。やっぱりディーノを待ったほうがよさそうね。」

「……あの人また来るの?」


嫌そうな顔をしていたんだろう。僕の顔を見てきょとんとしてから何故だか笑った。

沢田綱吉達の行方が分からないのがヴァリアーの仕業かもしれないと疑わなかったわけじゃない。殺し合いをしたのはついこのあいだの話だからね。誰も死んでないけど、死んでもおかしくはなかったなと思う。もちろん僕は死なないけど。
負けたけど別にスポーツの試合をしているわけじゃない。フェアじゃないことなんて当たり前に起こる世界だしそもそもが暗殺集団と素人中学生だったんだからフェアじゃなかった。だから負けた逆恨みにひとりひとり暗殺していってるんじゃないかなんて可能性も0ではない。だけど、どうにもこの人を目の前にして会話をしていると疑うのも馬鹿馬鹿しいと思ってしまう。だいたい暗殺しにきているのだとしたら僕が屋上に足を踏み入れた瞬間に気付かれることなく殺すことくらいわけもないんだから。わざわざ僕が気付くように気配を滲ませる必要なんてなかったし、悔しいけど彼女はそれが簡単にできてしまうくらいの暗殺者なんだろうなと分かってしまった。


「悔しいから咬み殺させてよ。」

「楽しそうな顔して何言ってるの?相手なんかしないわよ。」

「またそうやって逃げるの?」


あの時も、ボス猿に手は出すなって言われて律儀にそれを守ってた。本気を出せば一瞬でケリがつくはずなのにあえてそれをしない。彼女の本気を見てみたい。その群青の瞳がどんな色を映し出すのか、どんな風に歪むのか。彼女は草食動物の皮を被った猛獣だ。


「また手は出すなって言われてるの?」

「…………」

「君に意志はないの?」


あの時と同じように剣を抜きもしないで鞘でトンファーを受け止めた。その群青はやっぱり僕を映しているようでほとんど僕のことなんて認識していなくて、彼女の瞳に映るのはあのヴァリアーの連中だけなんだ。


「何が大切なのかハッキリしているのはいいことだけど、目の前に僕がいるのにそれはないんじゃない?」

「…なんの話?」

「少しは僕のことも意識したらってこと」


話しながらも攻撃の手は緩めない。ここで攻撃をやめたら彼女はきっとこの場を去るだろうから。
相変わらず防戦一方の彼女は息を乱すこともなくとても冷静なように見えた。何を考えているのか、何も考えていないのか。少なくとも自分は今目の前にいる彼女のことで頭の中が占められているっていうのに、まったくフェアじゃない。


知らない世界


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