medium story
PAGE:12
並盛中学校野球部、最後の大会
順調に勝ち進んだ我が中学校は、ついに決勝戦へと駒を進めた。この大会に勝手も負けても彼らの夏は今日ここで終わる。
今日は久しぶりにユニホームに袖を通し、チアリーダーとしてここへやってきた。
夏休みに入って部活が忙しい武くんとは1回も会えていなかった。
たまにその日の試合の結果を報告してくれるメールが届いた。私は応援することしかできないでいた。
いつかの屋上で、夏休みはたくさん遊ぼうと約束をした。今思えばあれは約束だったのかすらわからない。現に私たちは夏休みの半分を過ぎた時点で一度もあっていなかった。
会いたいとは思ってた。
でもそれと同時に武くんの邪魔はできないと思う。彼の学校生活は私がそうであったように、部活一筋の生活だった。それが今日終わる。最後に笑顔で終わるのか涙で終わるのか。今日この日のために武くんは毎日練習してきた。
邪魔はできない。
ついにこの日が来た。
俺の、俺たちの三年間も今日で終わり。
これまで順調に勝ち進んではきたものの、試合内容がよかったのかというとそうでもない。ミスするような場面じゃないところでミスしちまうこともあった。それもこれも俺の集中力が、違うところに向いてるからだってのには気がついてる。
夏休みに入る前からなんとなくぎこちなくなった俺と名前は、そのまま夏休みを迎えた。
夏休みに入ると同時に部活もラストスパートをかけて忙しくなった。
それでもふとした瞬間に考えるのは名前のことだった。
照れた顔、笑った顔、踊る時の真剣な顔。
授業中の少し眠たそうな顔や、横顔。
俺の隣でふわりと笑ってくれる君。
そして一番最後に思い出すのは、決まってあの日の涙の膜に覆われた瞳だった。
夏休みに入ってからというもの、たまにメールのやり取りをするくらいで一度もあってはいない。声も聞いてない。
名前はいつも疲れているはずの俺を気遣う言葉を俺にくれる。でも、そんな言葉じゃ俺は満足できないでいた。
会いたい。会いたい会いたい会いたい。
会って、その声を聞いて、その笑顔が見れたらどんな疲れでも吹っ飛んじまう自信があった。それでも会おうと言えなかったのは、忙しさを理由にしたのは、久しぶりに名前にあっていつも通りの俺でいられる自信がねぇからだ。
試合は俺たちの優勢で幕を開けた。
6回の時点で5−1
油断はできないけど、このまま逃げ切れるチームだった。
決勝戦ってこともあって、地元の人や両校の応援にたくさんの人がきている。
そんなたくさんの人がいる中で、ユニホームに身を包みポンポンを胸の前に抱え祈るようにこっちを見ている名前を見つけたのは7回が始まった直後だった。
会いたかった名前が、ここにいる。
今すぐ試合を投げ出して会いにいきたい。
そんな衝動に駆られた。
わかってる。今のあいつは俺個人ではなくて並中を応援するための応援団だってことも。それでも俺には周りのどんな歓声ももはや聞こえなくて、名前の姿しか見えなかった。
試合が動き出したのは7回裏。
相手校もこの3年間の集大成を見せにきてる。3点を返され、迎えた8回表。1点を奪い取り、点差を2点に広げた俺たちだったが、また1点を取り返された。
6−5 9回表
俺たちの攻撃。
ここでなんとしてでも得点をつなげたかったが、この炎天下の中行われる長丁場にチームメイト達も疲れが目立ってきている。暑さと焦りでどうしようもなくイライラする。
もうすぐ俺たちの夏は終わる。
prev|next