medium story

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とても珍しいお客さんが来た。





お客さんなんてかっこいいこと言ったけど、別にここは俺んちでもなんでもないただの教室。


両の手を胸の前で握りしめて、遠慮がちに教室の中を覗き込む様子は俺が言えたことじゃないけど怯えたウサギみたいだ。


山本は先ほどのホームルームが終わってすぐ部活に行った。1学期末のテストが終わり、夏の大会に向けてやっと本腰入れて部活がスタートしたところらしい。この夏、どこまで勝ち進むことができるかによって彼らの引退の時期が決まるのだから、気合の入り方が違う。




「山本なら部活に行っちゃったよ?」

「えっ?」

「山本を探してたんじゃないの?」





一応元クラスメートだし、山本と俺たちは仲がいいわけだし教えてあげるのが当然だよなと声をかけた。名字さんはやっぱりウサギみたいに肩をビクッとさせて俺を見た。




「あ、あの教えてくれてありがとう。でも武くんに会いにきたわけじゃないんだ。」

「そうなの?なんかごめん。誰?まだいるなら呼んであげるよ!」

「あ、あのっ、沢田くんと、獄寺くん…に、お話がありまして……」




名字さんが探していたのは山本ではなく俺たちだった。



俺たちは去年クラスが同じだし、山本の彼女である名字さんが俺たちと仲良くなるのは変なことではないけれど、わざわざ教室に会いにきてくれるほどの仲の良さを築いたわけではない。





でも、胸の前で握りしめる両手の指の先が白くなってしまっていて、ここに来るまでにとても勇気を振り絞ったんだろうなってなんとなくわかった。



俺たちの他に誰もいなくなった教室で、2対1で向かい合って座る。かしこまって座る名字さんは圧迫面接を受ける就活生みたいに思えてきた。もちろん圧なんてかけてないけど。




「何か俺たちに話があってきたんだよね?」

「う、うん。あの、最近武くんどう?」

「なんだよそりゃ」


思わず突っ込んだ獄寺くんだったけど、内心俺も同じセリフを言っていた。



「こんなこと2人に聞くのもおかしいなって思うんだけど…。」


最近武くんなんかちょっと変というか、悲しそうな顔をする時がある。

私何かしちゃったのかな?と思うこともあるけれど、武くんはそれを隠そうと普段通りを演じてる。



きっと私には知られたくないことや言えないことで悩んでるんだ。私は武くんの相談相手にはきっとなれないし、いいアドバイスも多分できない。彼を笑顔にさせてあげることも、その何かを一瞬でも忘れさせてあげる技量も持ち合わせていない。


もうすぐ夏休み。


武くんの中学最後の夏が始まる。



最後の大会、悔いの残らないように全力で挑んでもらいたいけど私は何のサポートもできないから。ただ、応援することしかできないから。





「武くんの悩み事を教えてもらおうとは思ってないよ。ただ、私は何もしてあげられないから、もし沢田くんと獄寺くんが何か知っていたりするなら…。武くんを、よろしくお願いします。」

「名字さん……。分かったよ。俺たちでできることがあれば山本の力になるよ。」

「ありがとう」

「お前さ、山本が何に悩んでんのか本当にわかんねぇのか?」



獄寺君の言うことは最もだった。


彼女だなんて言ってもらえるけど、肝心な時に彼の支えになってあげるどころか逆に心配させまいと気を使わせてしまっているようで。



何に悩んでいるのかも、それを聞いたところでどうしてあげたらいいのかも、何もかもがわからない今の私じゃなんの役にも立ちそうにない。




「情けないことにどうしたらいいのかもわからなくて。武くんはあんなにまっすぐな人なのに、そのまっすぐな気持ちに私も素直に答えられたらいいのに。いざとなると緊張と恥ずかしさで何も考えられなくなっちゃうんだ。」

「そういうことだったんだ。」

「え?」

「いや、こっちの話!でも山本ならきっと大丈夫だよ。名字さんはさ、山本のことが大好きなんだね」





大好き




俺がそう言った途端ボンッと赤くなった名字さん。山本が可愛い可愛いって連発するのが少しわかるよ。



山本が心配するようなことは一つもないように思うけど、確かに彼女にはまだ早い気がする。彼女は本当に無知で、俺たち男みたいに無駄な知識がまるでない純粋な子なんだ。


彼女もきっと戸惑ってる。

名字さんが純粋だからこそ山本も戸惑ってる。





きっかけひとつできっと元通りになれるよ。





ありがとう。

そう言い残して丁寧にお辞儀までして名字さんは帰っていった。



「なんか俺ら結局のろけ話聞かされただけっぽくないっすか?」

「はは、確かにね!」

「ったく、人騒がせな野郎だぜ。」










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