medium story

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教室を出るときに大地が余計なことを言ったせいで、私は妙にそわそわしてしまっていた。


よろしくってなにさ。大地からよろしくされても、武くんが困るだけじゃない。もう、本当にお調子者だ…。





『な、なんかごめんね。うるさかったでしょ?』

「ん?いや、俺の方こそ喋ってたのに悪かったな。友達、よかったのか?置いてきちまって。」

『もう少し喋るって言ってたし、大丈夫だと思う。2人共自転車だから、かえってよかったのかも。』





武くんはそっか!と言ってまた笑う。

武くんは何が面白くて笑ってるのかな?

私は武くんの笑顔をみると笑顔になれるけど、武くんは今何に笑ってるのかな?







たまたま通りかかった名前の教室。

名前はとっくに帰ってる時間だから、覗いてみたっていないのはわかってる。でも、普段の癖でついつい名前の教室の前を通る時は中を覗いてしまう。




目が合うことはねえけど、次の授業の準備をする名前とか友達と話す名前を見てる。



たまたま教室に残ってた名前と一緒に帰れることになって、とっても嬉しいはずなのに、今俺の隣には大好きな名前がいるのに。




「彼氏さん、名前のことよろしくなー!」

『ちょっと大地!?』





なんてことない友達同士の会話のはずなのに。


なんでこんなに目に焼き付いて離れないんだ?


俺は何に焦ってて、何に嫉妬してんだろーな。




いや、最初からそんなんはわかってる。

わかってるから情けなくて、名前の隣で笑うことしかできねぇのな。



こんなのは、ただの嫉妬だ。






『た、武くん?』

「あ、わり。数学だっけ?」

『……うん。…久しぶりの部活で疲れた?』

「いや、今日は軽かったから大丈夫だぜ!ただ、昨日寝たの遅かったからなー。おかげで数学もなんとかなりそーだけどな!」

『そっか。よかった。今日からはまたたくさん寝れるね』




心配させちまったかな。


名前は何も悪くない。もちろん名前のダチだっていうあいつも悪くない。



悪いのは心が狭くて余裕のない俺だ。




いつもの分かれ道。

この道を名前はまっすぐ。俺は右へ。

いつもあっという間だって感じるこの道が、今日はより早く着いてしまった気がする。きっとぼんやり歩いたせいだ。



「家まで送ってこうか?」

『ううん。昨日までテスト勉強で大変だったし、今日は早くおうちに帰って休んだほうがいいよ。』

「サンキューな。」

『じゃあ、また明日。』

「おう!」



名前は俺が右に曲がって一つ目の電信柱まで歩いていくのをいつも見送ってるのを知っている。

俺が動き出さないと名前も動き出さないから、知らないふりしてここまで歩いてる。



俺は必ず電信柱を通り過ぎたら振り返って、ミラー越しに遠ざかっていく名前が見えなくなるまでそこにいる。



一つ目の電信柱



そこを通り過ぎていつものように振り返った。



「っっ!」



名前がいた。



いつもと振り返るタイミングは同じだった。いつもならもう歩き出している頃なのに、名前はどこか心配そうにこっちを見てる。



なんだよ。


すっげー、可愛い。



このまま帰るわけにはいかなくて、俺はきた道を走って戻った。


自分の方へ戻ってくる俺を見て、心底びっくりしてる名前だけど、びっくりしてるのは俺の方だ。



いつも名前が真っ赤になっちまうよーなことをわざと言ったりしてからかってはいるけど、こうわざとではなく素でやられんのは反則だろ。




「名前!」

『武くんどうしたの?わっ!』

「名前〜」

『え、武くん、本当にどうしたの?やっぱり具合悪いの?』



やっぱりってなんだよ。俺が具合でも悪いのかと思ってたのか?



走ってきたままの勢いで、名前に抱きついてやった。名前は驚いてるけど、本当に具合が悪いと思っているようで心配するほうに神経使ってるらしい。



勢いのまま走ってきて、勢いのまま飛びついちまったけど、正直この後どうしていいかわかんねぇ。



『武くん、お家まで送ろうか?』

「いい」

『え、でも……』

「名前」

『はい?』



きっと訳わかんねえのに、俺の一言一言に反応してくれて。

その全てが俺を気遣うような声色で。



全部が好きでどうしようもねぇなーって思った時には、名前の顔が目の前にあった。









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