medium story
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「で?最近の山本武はどうよ?」
『ええ?りかちゃん、定期的に尋問するのやめようよ…』
「何言ってんの。尋問でもしなきゃあんた話してくれないじゃない」
そんなこと言われても。
話すことなんて特にない。
武くんとは喧嘩もしたことないし、付き合ってる上で悩んでいることなんてのも………あ。
「なになに!?ついに山本武のドSぶりが耐えられなくなった?」
『ちょっとりかちゃん!?武くんはそんなんじゃないよ!誤解が生まれるからやめてよ!』
悩みってほどのものじゃないのかもしれないけど、それでもどうしたらいいのか分からないのは悩むっていうカテゴリーであってるよね?
「ほうほう。最近山本武がグイグイくるので困っている…と」
『困るっていうか……私どうしたらいいかわからなくて!付き合ったりするのも武くんが初めてだし、未だに手を繋いだりするのも緊張して心臓が飛び出そうになるんだよ?』
「あんた達、手は繋いだことあるんだ。意外。」
『2回だけ……』
りかちゃんがため息を……!
その2回っていうのも、手を繋いで歩いたとかってわけじゃなくて、屋上で名前を呼び合うようになった日に握られて、屋上にいる間何故かずっと繋がれたまんまだったのが1回と、帰ってる途中に信号が変わりそうで手を引っ張られたのが1回。
って、何しっかり数えちゃってるんだ私は!
最近の武くんは、私の知らない顔をする。
周りに伝染しちゃうような笑顔でもない
グランドに立つ時の真剣な顔でもない
まっすぐ見つめられると目が離せなくなって、どうしようもなく胸が高鳴って、涙が溢れそうになる。
そんな顔。
「悩まなくていいと思うけど?」
『そ、そうなの?』
「どうしたらいいかわかんないなら、山本武に聞いてみればいいじゃない。」
『そ、そんなことできないよ!』
それができたら苦労しないんじゃないかな。
「な〜な〜、なんの話ー?」
「うわ、うるさい奴が来た。大地には関係ない話だよ」
「はぁー!?ひっでー!俺ら3人幼稚園からの仲じゃーん!な、名前?」
『え!?私に振らないでよ…』
りかちゃんと放課後の教室で恋話と言う名の尋問を受けていた。そこにやってきたのは、幼稚園からの友達。幼馴染ってわけではないけれど、小さい頃から知ってるし、人見知りの私でも人見知りをする前に仲良くなった数少ない男の子の友達である。
同じクラスではないけれど、私達が話しているのを見てやってきたらしい。
「ちぇー。名前の彼氏さんの話でも聞いてやろうかと思ったのに!」
『へ!?なんで、大地がそれを…!』
「あんた逆に知らないとでも思ってたの?ほとんどの人が知ってんじゃない?とくにこいつは男子のくせに噂話が好きだからねー」
「いやー、あの学校中の人気者を射止めたのが名前ってのには、驚いたけどな!ま、さすが俺のダチなだけあるわ。」
『なんで大地が誇らしげなの?』
大地は昔からこうだ。
お調子者だから私にも気にせず話しかけてきて、気づけば私も普通に話せるようになっていた。
「なぁなぁ、おまえらどこまで進んでんの?」
『……………はい?』
「はい?じゃねーよ。男と女!付き合うっつったら決まってんだろーが!」
「あんたバッカじゃないの?脳みそ猿以下ね。」
『変態だ……』
「おいおい。マジで引いてんじゃねーよ!」
いや、引くよ。ドン引きだよ。
普段男の子と話さないから知らなかったけど、男の子ってみんなこうなの?
「男なんてみんなこんなもんだぜ。山本も爽やかだけど男だかんな!どんな事考えてんのかなんてわかんねーぞ?」
『た、武くんは少なくとも大地みたいな人じゃないもん!』
「はいはい、武くんねー。お、噂をすればなんとやらってやつじゃね?」
そういって廊下の方を指差す大地につられて、私とりかちゃんは廊下側に目をやった。何人かの生徒が喋りながら歩いている。
あの中に武くんがいるのだろうか。
背を向けていた私にはわからない。
集団が後ろの扉に差し掛かった時、一人の男子生徒が教室をひょこっと覗き込んだ。武くんだ。
「あれ、名前?まだ残ってたのかー?」
『あ、う、うん。お喋りしてた。武くん、部活終わり?』
「おう!一緒に帰ろーぜ!」
武くんはやっぱりキラキラの笑顔で私を誘う。
誘ってもらえて嬉しい私だけど、りかちゃんも大地も幼稚園が同じくらいなのだから同じ方向だ。たぶん何もなければ3人で帰る流れになったんだと思う。
私はりかちゃんを振り返り視線を送る。
「あ、わり!友達と帰るよな?」
「あたしたちのことは気にしないでー!もう少しこのバカに付き合ってくから」
『りかちゃんたちまだ帰らないの?』
これは気を遣わせてしまってるんだろうか。
もういっそのことみんなで帰るっていうのはどうだろう!?いや、なんか変だよね。2人とも武くんに余計なこと言いそうだし。
『じゃ、じゃあ、私武くんと先に帰るね?』
「うん、また明日ねー」
「彼氏さん、名前をよろしくなー!」
『ちょっと大地!?やめてってば!い、行こう武くんっ』
私は武くんの背中を押して教室から出た。
「ちょっとからかいすぎじゃない?」
「だって名前に彼氏って…。お兄ちゃん悲しいよ。」
「誰がお兄ちゃんだよ。誰もあんたのことお兄ちゃんだなんて思ってないから安心しなさいよ。」
「冷えよなー!ま、ガキの頃から知ってるし構いたくなっちまうんだよなー!からかい甲斐あるし?」
「それについては同感。」
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