medium story

PAGE:2






今日はふたりでお昼ご飯を食べようと、屋上にやってきた。



いつも一緒に食べているツナと獄寺は、今日は教室で食べると言いここには来なかった。



そよぐ風は暖かく、とても過ごしやすい屋上。



名字は可愛らしいピンクの弁当箱を開きながら、隣の俺の手元をみる。


俺の手元にはコンビニのパン。


いつもがコンビニや学食ってわけでもないが、親父も店の仕込みや魚の買い付けなんかで忙しいからな。




『山本くん、大きいのにそれだけで足りるの?』

「これ一個だけじゃないぜ、ほら」

『よかった。たくさんあったんだね』

「名字こそ足りんのかー?」




名字の弁当箱は小さい。

それを伸ばした太ももの上にちょこんと乗せている。



乗せてる弁当も可愛ければ、両足を伸ばして座る姿も可愛いし、首を傾げて俺を少し見上げてくるところなんかもう可愛くて可愛くて…。



名字は何をしていてもかわいい。



これが俺がこの一年名字の側にいて至った結論。わりと早い段階でこの結論に達して、それから一度だってゆるいだことがない。




『引退してから運動量が減ったから…。このくらいでちょうどいいよ』

「引退かー…」

『うん。』




名字たちチア部が引退したのは今月の頭。


もちろん俺も応援に行ったぜ。ツナ達とな。


毎回応援に行くと俺の方が緊張してて、踊る名字の笑顔に安心させられるんだ。

獄寺には逆だろって怒られたのな。




「うまそうな弁当なのな」

『あ、あの、何か食べる?』

「お!いいのかー!?」



じゃ、卵焼き!と言えば、はい、どうぞって弁当箱ごと俺にくれた。

ここで、はい、あーん。なんてやられたら俺、心臓爆発すんじゃねぇのかなとか一瞬で考えたけど、名字がそういうことしないのもなんとなく分かってた。



きっとそんなことさせたら、名字のほうが爆発する。恥ずかしすぎて。




「ん、うまい!」

『本当?よかったー』

「この卵焼き自分で作ったのか?」

『うん。他のものは昨日の残りとかだけど』



数あるおかずの中から、卵焼きをチョイスした俺、ナイス!!!



食べ終わった後、昼休みが終わるまでのんびりと過ごす。




名字は、あんまり喋るほうじゃない。

無口ってわけでもないけどな。



最初は確かにおどおどしてたし、目線もきょろきょろと彷徨わせて、どこを見て話していいのかすらわかんないって感じだった。



セーターの袖口を握りしめていたり、肩にかけたスクールバックの肩掛けの部分を握っていたり。




今だって、ほら。



スカートを握りしめてる。


目を見て話してくれるようにもなったし、いろんな話をしてくれるようにもなった。

俺のことも聞いてくれるし、自分の話もしてくれる。だけど、手だけはいつも、勇気を振り絞るようにグゥに握られている。




小さくて、子供みたいな手。

真っ白で、細い指。

きっと、俺の手にすっぽり収まるんだろうな。



俺が、急に手なんて握ったら名字はどんな反応すんだろうな。




「なー名字」

『なぁに、山本くん』

「その、山本くんってのそろそろやめね?」

『………え?』




名字は、不安そうにこちらを見上げる。

ちがう、ちがう。そんな顔させてーわけじゃねぇんだ。

俺は、さっきより少し強く握られている名字の手に自分の手を重ねた。





『え?え!?山本くん…!?』

「だからさ、山本くんじゃなくってさ。そろそろ名前で呼んでくんね?名前?」




俺も名前で呼ぶからさ。









prev|next

[戻る]
- ナノ -