medium story

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「名字!」

『あ、山本くん!おはよう』




ふわりと周りに花が飛びそうなくらい、ふんわりと笑うのは、俺の彼女の名字。

俺の1日は野球部の朝練を終わらせて、ダッシュで教室までいって、名字に挨拶をすることから始まる。


起きた時点から1日は始まっちまってるけど、俺としては名字の笑顔を見るまではなんかシャキッとしねーっつーかさ。


去年までは同じクラスだったから、学校に行けば同じ空間で授業も受けれたし、何言ってんのか全然わかんない暇な授業なんかは、真剣に先生の話に耳を傾ける名字の横顔だったり背中だったりを見つめて過ごしてた。



名字はいつも真面目に授業を聞いている。

でもたまに、俺の熱い視線に気づくのか、ぱちっと目が合うんだ。

その時の名字がまた可愛くてさ。



目があって、見られてたってのに気付いて、顔真っ赤にして目をそらすんだ。そのあと必ず、ちらっとこっちを見んだよな。

最後にこっちを見たあとは、暑くなった顔をパタパタとやりながら前を向き、また真剣に授業を聞くんだ。





3年になってクラスが離れちまったから、授業中の楽しみがなくなった。


だから俺はこうやって、朝イチで名字の顔をみにいくんだ。








今日も、朝練とホームルームの合間のわずかな時間で朝の挨拶をしにきてくれる山本くん。

私のクラスは廊下の一番奥だから、一度山本くんは自分のクラスを通り越して私のクラスまでわざわざやってきてくれるのだ。



朝練が終わる時間も結構遅いので、朝に話せる時間はほとんどないけれど。


それでも、クラスが離れてしまってからはほぼ毎日こうして会いに来てくれている。



山本くんは相変わらずまっすぐな人で、明るくていてくれるだけで元気をもらえるような人。


私なんかにはもったいないくらい。


私の憧れの人であり、大切な人。



山本くんには毎日笑っていて欲しいな。





「今日も朝から爽やかだね〜山本武。」

『あ、おはようりかちゃん。』

「もうすぐ付き合って1年だっていうのに、いつまでも初々しいよね」

『そ、そうかな?』





そっか。もうすぐ付き合って1年経つんだ。


未だに信じられないなぁ。



私の大好きなダンスを好きだって言ってくれた山本くん。いつしか私も野球を全力で楽しむ山本くんを見るのが大好きになった。


野球はあまり詳しくなかったんだけど、この1年山本くんとたくさんのことをお話しして、野球のこともたくさん教えてもらった。

緊張してうまく話せない私を、責めるわけでも急かすわけでもなく、笑顔で待っててくれる。

そんな山本くんだからこそ、私もゆっくり慣れていったんだと思う。




普段は記念日を祝ったりしないけど、1年記念日は何かしてあげたいなぁ。

いつもありがとうって言う気持ちを、何か形にできないかな。






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