medium story

君のために僕ができること








「どうやらあなたのお迎えがきたようですね。」

『お迎え?』

「えぇ。外がなにやら騒がしい。」





そういって、窓際へと歩んで行く六道くんをなんとなく黙って見つめた。



数歩進んだところでこちらを振り返り、わたしを見つめる彼に、ついておいでと言われているように思えて、両足に力をいれて立ち上がった。


わたしが立ち上がったのを見て、六道くんはまた窓の方へと歩き出した。


手を縛られてはいるが、歩いたりすることまで縛るつもりはないらしい。手も痛くなるほどきつく結ばれているわけではない。



六道くんが所々破けているカーテンを少しだけ引いて外を眺めている。遮るものがなくなり、部屋に入り込んだ光が顔に当たってとても眩しい。



そういえば今は何時なんだろう。

自分がどのくらいの時間、意識を手放していたのかさえ分からないので、正確な時間はおろか、日付さえも分からない。




隣までやってきたわたしにも外が見えるように、カーテンをさらに開けてくれた六道くん。


視線だけで促されるように外に目を向けた。





『……迎えって、あの人のこと?』

「違うのですか?僕はそう思いますけどね。」





覗き込んだ先には面影がまったくなくなってしまった、黒曜ランド。


見下ろす高さからして、3階か4階くらい。



ずーっと奥に門が見える。

その門からこの建物へまっすぐに伸びている道に、倒れている人達がちらほら。


それは現在進行形で増えていた。




『残念だけど、委員長はわたしがここにいることなんてたぶん知らないし、わたしを助けにきたわけでもないと思うよ。』

「ではなぜ彼はここへ?それも一人で。」

『なぜって…喧嘩をふっかけたのは六道くんでしょ?並盛の風紀を乱されて、委員長が黙っているわけないもん。一人できたのは、そういう人だからだよ。』





左右に生い茂る木々の間から、わらわらと出てくる人たちは、どうやら黒曜中の制服を着ているらしい。


木の棒やら鉄パイプ、バットなんかを振り回して委員長に殴りかかっては返り討ちにされてのびている。



あっという間に地に伏していく人達に、わたしではなく六道くんのほうが呆れたらしい。彼は、「足止めにすらなってませんね。」と苦笑いしてカーテンを閉めた。





再び薄暗くなった部屋の中には、妙な沈黙が流れている。



六道くんがソファーへと歩き出したので、わたしも最初に座っていたソファーへと戻り腰をおろした。





「あなたは、雲雀恭弥と幼馴染なのですよね?」

『うん。あと副委員長の草壁哲矢。』



なんだかもうそれくらいのことを言い当てられたくらいでは驚かない。六道くんにはすべてを見透かされているような気がしてしまうからだ。




「彼はなぜ今回のことをあなたに話さなかったのでしょう?幼馴染なのに。仲間外れにされている気分ではないのですか?」

『わたしが知ったところで何もできなかったと思うよ。現にこうして、六道くんに捕まってるくらいだしね。委員長はわたしが何もしなくても、一人で解決してしまうから、今回何も言われていないってことは、わたしにできることはないってことなんだと思う。』

「随分と雲雀恭弥のことを信頼しているんですね。」

『あの人は強い人だもの。』





委員長がきたとわかった時から、わたしの不安はなくなっていた。



六道くんが強いのかどうかなんて分からないけど、それでも委員長より強い人なんていないと思っている。

ここにいれば委員長が六道くんを咬み殺して、ついでに連れて帰ってもらえる。



委員長が連れて帰ってくれなかったとしても、後片付けにくるであろう哲は絶対にわたしを連れて帰ってくれるはずだから心配ない。





「そろそろここへ着く頃ですね。」

『六道くんなんて委員長に咬み殺されちゃえ!』

「ひどいですねぇ。僕のほうが強いですよ?」

『そんなわけないよ。』






そんなわけない。


自信満々に答えるわたしに眉をひそめて嫌悪感をあらわにする六道くん。これまですました顔をしていた分、それはやけに幼く見えて、同時になぜだか勝ち誇ったような気分にもなった。






「さて、そろそろ人質らしくしていてもらいましょうか。」

『………っ、』「クフフフ、またいつか」







遠くなる意識の中で、桜の中トンファーを振るう委員長を見た気がした。

































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