medium story
君との距離は近くて遠い
草壁と別れてからの帰り道。
あと5分もしないうちに家に着く。
「あの、すみません」
『?はい?』
「黒曜ヘルシーランドという場所に行きたいのですが…」
声をかけられ、振り返った先にいたのは、黒曜中学の制服をきた男子生徒だった。
『黒曜ヘルシーランドはたしか数年前に営業停止になり、今は廃墟と化していますよ?』
「はい。ですが、祖母との思い出の地なのでぜひ面影だけでも見ておきたいと思いまして」
『あなた黒曜中学の生徒ですよね?』
「?あぁ!実は最近こちらに越してきたばかりでして、学校帰りにヘルシーランドに向かう途中で迷ってしまったのです。」
なるほど。黒曜中学から向かって何故並盛に辿り着いてしまったかは置いておくとして。
面影があるかどうかは分からないが、思い出の場所なのだと言われてしまえば案内するしかない。
黒曜ヘルシーランドまでの道のりを歩きながら、その黒曜中の生徒と自己紹介を交わした。
「僕は六道骸です。あなたの名は?」
『あ、名字名前です。』
「見かけない制服ですが、どこの学校に通っているのですか?」
六道くんが見かけないのも無理がない。
今、わたしが着ているこのセーラー服は数十年前の並盛中の制服だ。
『この制服は並盛中の風紀委員の制服なの。一般の生徒はブレザーだよ。』
「並盛中の風紀委員というと、ここら一帯の不良達をまとめ上げているという?」
『そんなに物騒なものじゃないよ。わたしは幼馴染のよしみで所属しているだけだけどね。』
「でも、その委員長は強いんですよね?」
『うん。強い人だよ。』
「あたりか」
『え?』
もうすぐ黒曜ヘルシーランドに着くというところ。
急に立ち止まった六道くんを振り返ろうとした時だった。
首筋に鈍い痛みを感じ、目の前が真っ暗になったのは。
あぁ、哲。ごめん。
何かあったら委員長に連絡しろって言ってたけど、そんな暇もないよ。
そんなことを思いながら、意識は沈んでいった。
翌日
一夜にして、風紀委員を含め8人もの生徒が襲われた。
被害は風紀委員だけにとどまらず、ついに一般の生徒までに及んでいる。
いずれも部活動などで成績を残す者達で、やはり狙いは並盛中学への挑発か。はたまた、個人的恨みか…。
どちらにしても、この並盛で好き勝手させるわけにはいかない。
風紀委員以外も襲われたとなると、もう並中生なら誰が襲われてもおかしくなくなってきている。
登校時も通学路を見回りさせ、いつもより多くの風紀委員を外に配置させた。
「や、やっぱり不良同士の喧嘩なのかな?」
「違うよ。」
相変わらずの草食動物っぷりで登校してきた沢田綱吉。今日は赤ん坊も一緒なんだ。
「ヒバリさん!いや…ボクは通学してるだけでして…」
「身に覚えのないイタズラだよ…もちろんふりかかる火の粉は元から絶つけどね」
そう。この並盛で笑えないイタズラをするような奴は、僕が直々に噛み殺してやらないと気が済まないからね。
♪〜緑たなびく 並盛の〜
大なく小なく並がいい〜♪
ピッ
「ご報告します!今朝、笹川了平がやられました!」
「……君の知り合いじゃなかったっけ。笹川了平……やられたよ。」
草壁からの電話で新たな被害者がでたことを知る。
これで19人。
「委員長。やはり事件の前後で、黒曜中と思われる制服をきた生徒が見かけられています。」
「そう。君は確認のため病院に向かって。」
犯人の目星はついている。
ただ、目的が分からない。
どっちにしてもやられっぱなしは性にあわないからね。そろそろ僕も反撃させてもらわないと。
♪〜緑たなびくー並盛の〜
再び鳴り響く我が校の校歌。
着信を知らせる画面には先ほど通話を終わらせたばかりの草壁の名前が表示されている。
「なに、まだ何かあるの」
「いや…、その…」
「………切るよ」
「名前が!」「……………」
告げられた幼馴染の名前。
もう何年も直接名前は呼ばなくなった。
なんでだかもわからないけれど。
それが今の僕とあの子の距離でもあった。
「名前が昨日から自宅に帰っていないと、名前の母親から連絡がありました…」
「送ったんじゃないの」
「いえ、近くまでは一緒に行ったのですが、途中で別れました。自分の責任です。申し訳ありませんっ!」
「あの人は僕がなんとかしとくよ。」
まったく、昔から面倒ごとに最初に首を突っ込むのは、一番弱いあの子だ。
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