medium story

勘違い





『あた―すき―の?』

「おう、すきだ―」






なんなんだよこれ。

知らない女に呼ばれて裏庭に行ってみれば、ありきたりに告白されて。付き合う気はないと断り教室に戻ろうとした時聞こえた、さっきまで自分達がしていたような会話。




『ありがと、あたしあんただいすきだ』



妙にはっきり聞こえた。

誰かと聞き間違えるはずはない。

毎日一緒にいて…毎日一緒にたばこ吸って…気付けばいつも俺の隣にいたあいつの声。



近くにいるのが当たり前だと思っていた。

十代目や山本とも仲はいいが、1番一緒にいるのは−−1番近い存在なのは自分だと過信していたのかもしれない。


あいつに…名前にすきな奴がいたりとか、もしくは知らないだけで彼氏の1人や2人がいたかもしれないなんて。



考えもしなかった



男の声は山本だろう。中学から連んでんだ。いけ好かねー野郎だがそれでもダチだと思わないわけではない。

呑気に出て行くこともできず、息を潜めこの場が落ち着くまで待つ。


そのうち「そろそろ戻んねーとツナが心配するぜ」を合図に2人が遠ざかっていく気配を感じた。



「はぁ〜」



柄にもなく長いため息を吐きながら壁に背を預けずるずると下がっていく。


2人はさっきのあの瞬間から恋人同士なのだろうか。

なんだかそれが無性に腹立たしくてズボンから最後の1本のタバコを取り出す。



1人で吸うタバコはあいつとのなにげない日常を思い出すばかりで。

1本じゃ足りないくらいたくさんあいつの顔が浮かんでくる。


中身のなくなった箱をぐしゃっと握りつぶして、重い腰を上げた。

教室に向かう獄寺の背中は、認めざるを得ない自分の人間らしい気持ちと、蕾になり始めたばかりの恋がすでに叶わないものになっているかもしれない不安で、しょぼくれて見えた。








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