medium story

僕は君から目が離せない






『ん?中村くんは?』

「あ!な、中村なら風邪で…」

『中村くんも風邪?最近流行ってるの?』

「どうなんすかね?姐さんも気をつけてくださいね!」





最近、風紀委員の欠席者が目立つ。


把握しているだけでも5人。

長引く達の悪い風邪なのか、5人ともまだ学校にきていない。





『委員長、風紀委員内で風邪が流行ってるみたいですね』

「弱いからこうなるんだよ。僕なら平気だ」

『風邪は弱い強いじゃないと思うんだけど…』




かくいう雲雀も去年、風邪をこじらせ入院しているのだ。風邪をひかない人間なんていない。



『そういえば、去年委員長のお見舞いにいった時も沢田くん達がいたな〜』

「僕の眠りを妨げるから噛み殺してやったけどね」





たしかに、あの騒がしさは病院では怒られてしまうかもしれない。

でもいつも賑やかで楽しそうな沢田くん達は、毎日が楽しそうだ。





「今日はもう帰っていいよ」

『え!?風邪で休んでる人も多いし、わたしもみんなと外の見回りに行こうと思ってるんだけど…』

「ダメだよ。きみは外回り要因じゃないでしょ。」

『じゃあ、ここで委員長の手伝い…』

「いらない」




被せられるように断られてしまっては、次の言葉も浮かんでこない。



ふたりのいる応接室に沈黙が流れる。




「失礼します。中村の件ですが…」

「草壁。」

「…………っ。失礼いたしました。」

『………?中村くんは風邪でしょ?』

「あ、あぁ。知ってたのか名前」




草壁がきたことで、持ち直すと思われた応接室の空気は再び居づらいものへとなってしまった。



今、委員長は明らかに哲の言葉を止めた。






『何かあったの?』

「きみが気にするようなことはなにもないよ。草壁、この子今日はもう帰らすから。」

「はい。では自分は見回りがてら名前を送ってきます。」

『え?送るとかいいからって、ちょ、押さないでよ哲!あっ…』




バタン。




草壁に背中を押され、半ば無理やり応接室から出された名前の声が聞こえなくなったところで、雲雀は長いため息をついた。




中村という風紀委員の生徒。




昨夜、何者かに襲われ病院に運ばれている。


その2日前には井上、佐川という生徒も襲われていてどちらも重症だ。



井上にいたっては、24本すべての歯を抜かれていて、これがただの不良同士の喧嘩ではないことを物語っている。




犯人の目的も未だわからないまま。




しかし、狙われているのはいずれも風紀委員の者達だ。


それは風紀委員長である自分への挑発と捉えて間違いないだろう。




風紀委員の下っ端が喧嘩をふっかけられて負ける分には構わないけど、あの子は弱いからね。そのくせ正義感は強いから、今回のことを知ったらきっと黙ってないと思う。



だからあの子の耳にはこの件のことはいれてないし、これからも教えるつもりはない。


巻き込むつもりもない。


だからまだ明るいうちに帰らせた。




草壁は話のわかる奴だから、きっと大丈夫だろう。









『哲?委員長とふたりで何か隠してるでしょ?』

「委員長も言ってただろう。名前には関係ない」

『風紀委員なのに?』

「風紀委員でもだ。」





応接室を追い出され、仕方なく帰路につくわたし達。

わたし達って言っても、哲は一応仕事中だ。



ふたりとも頑固だから、こうなってしまったら何がなんでも口を割らないだろう。




『幼馴染なのに?』

「うっ…、」





風紀委員の名を出してもダメなら、最終手段だ。

哲はこの言葉に弱い。

それを知ってて、こういう聴き方をするわたしはとってもずるい奴だ。




「………幼馴染、だからこそだ。委員長の気持ちも分かってやれ、名前」

『だからこそって言われても…』




雲雀の考えてることも想いもわからない名前にとっては、草壁の言葉はさらにわけがわからなかった。



ただひとつ、今こうして送ってくれている彼を困らせてしまっていることくらいはわかっているつもりだ。




『ごめん、哲。仲間外れにされて意地張ってた。』

「いや、すまないな。すべてが終われば、委員長も教えてくれるかもしれない。」

『ううん、いいよ。けど、危ないことはしないでね。』

「あぁ!」






自宅のほうに向かいながらも、見回りをする草壁とともに、名前もそれとなくあたりを観察する。



なにもおかしいところはない。



いつも通り平凡な並盛だ。




『じゃあね、哲。』

「本当に家まで送らなくていいのか?」

『大丈夫だってば。見回りのコースからも外れちゃうし、まだ明るいから平気だよ』

「そ、そうか。何かあったらすぐ委員長に連絡しろよ。」

『はいはい。じゃあ、また明日!』






幼馴染の背中が見えなくなるまで見送った草壁は、学校へと走って戻るのであった。










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