medium story
僕の毎日は君から始まる
『あれ?井上くんと佐川くんはお休み?』
「いや、えっと……」
「あ、あいつら揃いも揃って風邪ひきやがったんですよ姐さん!」
『風邪かぁー。お大事にって伝えといてね』
「ういっす」
校門前、そんな呑気な会話を繰り広げる不良と少女。
姐さんなんて呼ばれてはいるが、決して不良ではない。
並盛中学校はそのほとんどを風紀委員会で取り締まっている。
身だしなみ指導、遅刻指導、校内での不祥事の対応および処置、学校行事の運営などなど。
生徒会長や校長ですら、風紀委員長には頭が上がらないのである。
「お、おはようございます!委員長!」
「……君たち、朝っぱらからうるさいよ」
「すみません!!」
彼がこの不良たちをまとめ上げる風紀委員会のトップ、雲雀恭弥。
自他ともに認める「並盛の秩序」である。
『おはよう』
「うん」
朝の挨拶をしたにも関わらず、返事が「うん」
それを気にした風でもなく、雲雀の隣に並んだ彼女が、風紀委員会女子副委員長である名前である。
彼女のことを風紀委員のもの達は「姐さん」と呼ぶ。大事なことだからもう一度言っておくが、彼女は決して不良ではない。ごくごく普通の女子中学生であり、喧嘩も強くなければ運動神経も並である。
「委員長!そろそろ朝練を始める生徒が登校してくる時間です」
「そう。じゃ、各自持ち場について。何かあったら連絡。違反者は好きにしていいよ」
「はい!」
『哲、おはよう』
「あぁ。おはよう名前」
朝の挨拶にきちんと返してくれる彼は草壁哲也。風紀委員会男子副委員長である。
実は、名前と雲雀と草壁は幼稚園に入る前からの幼馴染なのである。
それゆえ、幼稚園、小学校、中学校と3人仲良く進級してきたというわけだ。
不良でもなんでもない彼女が風紀委員に所属している理由でもある。
「お!名前先輩じゃないっすか!おはよっす!」
『山本くん、おはよう。野球部の朝練?』
「いや、今日は自主練っす!」
『頑張ってるね。そっか!来月大会があるもんね」
そうなんですよ!と白い歯を見せて爽やかに笑うのは1年生時からレギュラーとして活躍している我が校野球部のエース山本武。
雲雀がなにかと絡まれているうちに仲良くなった後輩のひとりだ。
「先輩、大会の応援とかって来てくれんすか?」
「行くわけないでしょ。あんな群れてるところ」
『……と、委員長が言っておりますので、副委員長の私と哲で野球部の活躍っぷりを見せてもらいにいく予定だよ』
「おっしゃ!そうとわかれば気合いれて練習しねーとな!じゃ!」
終始爽やかな山本は、最後まで爽やかに去っていった。
『委員長?なんか機嫌悪くない?』
「そんなことないよ」
『そう?』
「そこの君。ネクタイの結び方が汚い。ワイシャツもシワがある。なにより目障りだ。噛み殺す」
『………ねえ哲?機嫌、悪いよね?』
「……あ、あぁ。」
あれから30分程経った頃
今から8時半までが、服装検査で一番忙しい時間帯となる。
『あ、沢田くんに獄寺くん!おはよう』
「お、おはようございます名前先輩!」
「なんだ、今日服装チェックか?」
『その通り!はい、沢田くん曲がってるネクタイ直して。獄寺くんは中にTシャツ着ちゃダメって何度言ったら分かるのかな?』
「ちっ、後で脱ぎゃいんだろ」
抜き打ちで行われる服装検査。
群れを見るのが嫌いな雲雀だが、だらしない格好で自分の縄張り(並盛中)に入られるのはもっと気に入らないらしい。
門の外にいるわたし達ができるだけ目を光らせて今ここで直させないと、一歩校内に足を踏み入れた途端トンファーの餌食になる。
気を失った生徒達を医務室まで運ぶのもわたし達の仕事なのだ。
仕事は少しでも少ないほうがいい。
『ここで脱げとは言わないけど、せめて見えないようにボタンをとめてネクタイしてね。今日の委員長は機嫌が悪いから容赦ないよ、きっと』
「……朝から雲雀に追いかけられるのは勘弁だぜ」
チラリと木に寄りかかる雲雀を振り返りながら説得すれば、聞き分けのいい人は大抵身なりを整えてくれる。誰だって朝から雲雀に追いかけ回されたくはない。
問題はーー
『そこの生徒、腰パンは禁止です。それからアクセサリーも外してから校内に入ってください』
「あれー?風紀に女の子なんていたんだ」
「セーラー服ってのもかわいいねー!」
こういう、チャラチャラした人達。
「上げパンなんてダサいっしょ!それにこれないと個性が光らないし?」
『今日は服装検査の日です!身なりを整えてから……』
「バイバーイ!」
忠告も聞かずにズカズカと校門へ足を進めるチャラチャラした三人組。
個性とか、何言っちゃってんだか…。
「やっと、仕事ができた」
『人の忠告聞かないからあぁなるのよ。ふんっ』
「名前先輩も変なところ雲雀さん似ですよね」
『え?どこが!?』
結局、なぜか機嫌の悪い雲雀によって噛み殺された今日の生徒数は15。
校庭と保健室を何往復もして処理に追われる風紀委員会でした。
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