medium story
待つ者がいるということ
また、あんたは勝手にいなくなるの?
「う"ぉお"い!なんだぁ!この部屋の有様はぁ!!」
「オレのせーじゃねーし?」
「そこら中に刺さってるナイフもてめえのじゃねぇって言えんのか!?このクソガキィ!」
部屋のあちこちの壁にはベルのナイフが突き刺さり、花瓶は割れてテーブルは水浸し、ルッスーリアお気に入りのお洒落な燭台は片腕がもげていた。
そんな残念な部屋の中心で米神をひくつかせながら怒鳴るのはスクアーロ。怒鳴られているのはベルフェゴール。それを宥めるのはルッスーリア。ちなみにマーモンは傍観。レヴィは不在だ。
「まぁまぁ、スクちゃん。そんなにベルちゃんのこと責めないであげて」
「あ"ぁ!?こんだけ暴れといて責めるなってほうが無理だろぉ!」
「今回ベルが悪いのは半分だね」
「はぁ?じゃあ、あと半分はなんだぁ?」
「アレだよ」
アレ、と言ってマーモンが視線を投げた先には背中を丸めていわゆる体育座り状態の同僚の姿だった。
ジメジメと、キノコが生えそうなオーラを発している。気付かなかった。
「う"ぉ…、う"ぉおい、アレなんだぁ?」
「王子に挑んできたと思ったら次はキノコの栽培。ほんっと、ついてけねー」
「いじけてるだけよ」
ベルは飽きたと部屋を出ていき、マーモンは金にならないとどこかに消えた。頼みのルッスーリアですら、あとは頼んだわよん!と無責任なことを言って出ていった。
つまり、残されたのは自分だけ。
この見るからにめんどくさそうな状態の同僚をオレにどうしろって言うんだ。
スクアーロはため息をつきながら同僚のそばまで近づき、静かに腰を下ろす。
「で、おまえはなんでそんななんだぁ?」
『スクはもう怪我治ったの?』
「あ?あぁ、まだ暴れすぎりゃあ開くかもしんねえが、日常生活に支障はねえなぁ」
『あたしも元気だよ』
「だからなんだぁ?お前もともとそんなに怪我してねえだろ」
そう言えばますますこいつは落ち込んだ。
1ヶ月前にオレ等が負けたことで終わりを告げたリング争奪戦。
それはザンザスの負けを、さらには青臭い次期ボンゴレ10代目の存在を大々的に知らしめる結果となった。
ザンザスはあれから目を覚まさない。
それぞれ傷を負い、中でもオレなんかはサメに喰われてっからなぁ。結構ひどい怪我をしてたが、まぁもとの作りがそこらの人間とは違ぇ。1ヶ月もすりゃぁこの通りだ。
しかしそれがこいつの不安を駆り立てるのだろう。
こいつは雲の幹部。
オレと同じくマフィア養成学校に通っていたこいつとはそれなりに仲がよくてよくつるんでいた。
だからこいつとザンザスが知り合うのも、まぁ納得がいくっちゃいく話で。
どういうわけか一緒になってヴァリアーに入隊することになってから8年以上がすぎた。
ザンザスがいない間、必死になって技を磨き幹部にまで登りつめた名前を、今回の争奪戦の戦力から外すと言い出したのは他でもなくザンザスだった。
それに黙っている訳がないこいつも、ゴーラモスラとかいうわけのわからねえ奴がきて、雲戦に出すなんて言うもんだから流石に身を引いた。
…まではよかったが、結局同じく同級生のディーノと手を組みサメに喰われたオレを助け出すは、大空戦に勝手に乗り込んで沢田綱吉からザンザスを庇ったり…引っ掻き回してくれたわけだ。
そんで結局怪我もしてるし。
これじゃあ、なんのためにザンザスがてめえを戦力から外したのかわかんねえじゃねぇか。わかっちゃいねえかぁ、こいつバカだからなぁ。
『もうすぐ、誕生日なのに…。8年も待ったんだよ?それでいきなり帰って来て、またいなくなるの?』
「う"ぉい、勝手に殺すなぁ。生きてんだろぉが」
『勝手に死ぬなんて許さない。今度会ったらまずあたしを除け者にしたことを後悔するくらいぶん殴って、あたしの実力を認めさせてやる。それから、もう勝手なことしないように鎖につないでそこの椅子に縛り付けてやるんだから…!』
「せいぜい返り討ちにならねえように頑張るんだなぁ!」
いつもの調子が戻った名前の頭を撫でて漸く気付く。
こいつの肩が震えていることに。
「泣いてんじゃねぇぞぉ」
『泣いて、っ、ないし』
こいつは暗殺者にしては優しすぎる。
だからザンザスは今回こいつを外したんだぁ。
外したところでこれじゃあ意味がなかったみたいだけどなぁ。
早く目覚ませ
今度は氷漬けじゃねぇんだ
自力でここまで戻ってきやがれぇ
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