medium story

大きな動揺








「姉ちゃん!」

『ん?』

「陸じゃねぇか。おまえ店番いいのか?」




















親しくなった。


少なくともこいつの家族の名前を覚えるくらいには。






走ってきた長男、陸は生意気盛りの小学5年生。

この姉にしてこの弟。

血の繋がりはなくともこいつらは誰が見ても姉弟だった。




陸はとくに生意気で、10代目のことをあろう事かダメツナと呼びやがるような奴だったが、長男として、男としての自覚はあるようで分かりづらいがちゃんと下の奴らの面倒は見れる奴だ。


公園に駆け込んできた陸は八百屋のエプロンをかけたままだ。

それもそうだろう。

今俺の隣でベンチに座ってるこいつが休憩中の今、こいつのばあさんと陸たちが店番をしているのだから。





『陸?なんだよ、どうした?』

「姉ちゃん…!」




陸は見るからに慌てたような、気が動転しているような。

それだけでただ事ではないのが分かった。


陸はひたすら姉ちゃんと呼ぶばかりで、何があったのか話そうとしない。




夕焼けのオレンジが公園全体を包み込み、遊んでいた子供達はいつのまにかいなくなっていた。この公園にはオレ達だけだった。



ふと、聞こえてきた救急車の音にそれまで下を向いて両手を硬く握りしめていた陸が顔をあげた。





『陸…?』

「おい、黙ったままじゃわかんねえぞ」




陸のこんな様子は珍しく、それを見たこいつも柄にもなく動揺し始めて…。



「ばあちゃんが…」




漸く絞り出したように出した言葉は、最悪の事態を想像するのには十分すぎた。





「とにかく来て!」

「おい!陸!……ったく、しょうがねぇな」




走り出した陸を追いかけるべく、ベンチから腰をあげ少し走ったところで後ろを振り返る。



そこには、両手を握りしめベンチに座ったままのあいつがいた。




「おい!なにぼけっとしてんだよ!」

『………』




公園の出口に近いところから叫んでも顔をあげただけで動こうとしないあいつに痺れを切らしたオレは、先程まで座っていたベンチに戻っていった。



そこには不安気に瞳を揺らしてオレを見上げるあいつがいた。




「おまえ……」

『ご、くでら。どうしよっ、ばあちゃんに何かあったら…あたし…!』

「おまえがこんな時あいつらのそばに行ってやんねぇでどうすんだよ!しっかりしろ!」

『……でも』

「でもじゃねぇ!!行くぞ、名前!」





ここでうじうじしてたってどうしようもねぇんだ。今はあの小さいガキ達の所に行ってやるのが一番だ。不安なのは何もおまえだけじゃねぇんだぞ。




唇を噛み締めて溢れそうな涙を必死に堪えようとしているのが分かった。厳しいことを言ったのは分かってる。それでもおまえよりもっともっと小さいあいつらにはおまえしかいねぇんだってことを伝えたかった。




「心配すんな。オレもついてってやる」

『…うん』

「走るぞ」





夕日は沈みかけていた。










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