medium story
大きな共通点
「おまえ………」
『あ?』
「いや、部屋は綺麗なんだなと思ってよ」
『失礼だぞてめえ』
そう、これだ。この男勝りすぎる口調がなけりゃ、ちったぁ女らしくもなるはずだ。黙ってればなんとかとはこうゆう奴のことを言うんだと改めて実感した。
『獄寺てめぇ、あたしのことなんだと思ってやがんだ』と聞かれたオレは迷わず「男女」と答えた。脇腹を容赦なくぶん殴られた。
「そうゆうところがっ…」
『なんか言った?』
「……いや?」
両手をあげて距離を取るオレに機嫌が良くなったのか、まぁ座れよーなんて言いながらベッドを指すので言われるがままにベッドの淵に腰掛けた。
名字はベッドを背もたれにして床に直接座ると疲れたーと叫びながら伸びをして頭だけをベッドに持たれかけた。
「おまえ兄妹多いんだな」
『あぁー、まぁな。兄妹って言っても、上の3人は再婚した父さんの連れ子だし、一番下の海と半分血が繋がってるだけなんだけどな』
「そ、そうか…」
『なんだ獄寺まさか気遣ってんのか?あたしあいつらの姉ちゃんってより、母親代わりだと自分でも思ってんだ』
気にするなと言ったあいつの顔は、目の上に被せた腕のせいで見えなかった。
母さんが再婚した人には3人の子供がいた。一人っ子だったあたしはいっきに4人兄妹の一番上。年の離れたあいつらに最初はどう接していいか分からなかったけど、あいつらは姉ちゃんが出来たと喜んだ。それがあたしも素直に嬉しかった。
新しく弟も産まれ、一層賑やかになったばかりの頃、母さんと父さんは2人揃って交通事故で死んだ。
『もう5年くらい前の話だけどな〜』
「じゃあ、それからずっとおまえが母親代わりかよ」
『つってもばあちゃんまだ若いし、店のことくらいしかすることないんだけどな』
だからこいつは学校よりも店を優先させてんのか。それでいてあの成績には少し驚く。
こんなんだけど意外としっかり家族のこととか考えるような奴だったんだな。
「オレは虐められた不登校生かと思ってたぜ」
『ふざけんな。勝手に不登校にしてんじゃねぇよ。テスト受けに行ってんだろーが』
「テストだけだろ」
『うっせぇ』
「…………」
『…………』
そのうち口喧嘩にも飽きて、もともと知り合ったばかりの俺たちに弾むような会話はなく部屋は静まり返った。思えばこいつとはあぁして言い争うことばっかりでまともに話したことがない。だいたい同じ中学らしいが認識したのすらつい最近だ。そんな奴の部屋に今オレはいるのか…。ったく、変な気分だぜ。
「そーいや、おまえ休憩いつまでっ……ってマジかよ…」
『すぅー…』
いつまでも黙られたままじゃ居心地も悪ぃからと声をかけて漸くこいつが寝てるのに気が付いた。
規則正しく上下し、ゆったりと呼吸を繰り返しながら穏やかな顔して寝てやがる。
血の繋がっていない兄弟のためにそこまでできるこいつが少し前のオレなら理解できなかっただろう。
それでも今なら少しこいつの事も理解できる気がした。こいつを本当の姉貴のように慕うあのガキ共の気持ちも…。今ならほんの少し。
「いつまで寝てやがる!」
『うおぉっ!!』
「人の事ほったらかして寝てんじゃねぇ!」
『あー悪い悪い。構って欲しかったのか』
「ちげぇ!」
話す事すらいちいち癪に触るこいつとの言い争いが、少し……やりがいのあるものに感じた。
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