medium story

大きな進歩







あいつ……。

こんなところで何やってんだ?




















ブランコに座り足元を見つめたままその場から動かない女は、ついこの間同じクラスだと判明したあのお節介な八百屋の看板娘。


どこに客の口に食べ物を突っ込んで、金払えと脅す店員がいるだろうか。




まぁ、そんなわけで第一印象は最悪。


もう2度と会いたくねぇと、思った奴ほど会ってしまうものだとはよく言ったもので、今度はクラスメートとして会うことになった。



10代目に多大なるご迷惑をかけまくってる不登校野郎の正体がこいつだと分かった時は、どうしてやろうかと本気で考えた。それに加え口は悪りぃし、態度もでかい。女のくせに男みたいで可愛らしさの欠片もねぇ奴だった。




「おまえ、こんなところで何してんだよ」

『あ、獄寺』

「店番はいいのかよ」

『夕方の1時間は唯一の休憩時間なんだよ。貴重な時間なんだから邪魔すんな』

「……。はっ、そりゃこっちのセリフだ。おまえこそ俺の貴重な喫煙タイムを邪魔すんなよ」




本当なら誰もいない公園で一服するつもりだった。普段誰かいたら立ち寄ることもしない。でも今日は先客がいて、それがあの女だったもんだから興味本位で近づいてみた。



何をするわけでもなくブランコに座る女の隣のブランコに腰を下ろせばあからさまに邪魔だという視線をよこされた。少しくらい隠す努力をしろよてめぇ。




「……んだよ。見てんじゃねぇよ」

『おまえ暇なわけ?隣座っちゃって構って欲しいの?』

「んなわけあるか!暇人はてめーだろーが」





あ"ー!そもそもこいつとじゃまともな会話ができない。人のことなんだと思ってやがんだムカつく女だな。


こんなんで、ろくに学校にもこねえような奴が俺より勉強ができるというのがまた、変な敗北感を与える要素の一つでもあった。




『獄寺はさー、ツナ達と仲いいの?』

「俺には10代目をお守りする使命があんだよ」

『………』

「なんだよその目は!」

『いや、真面目な顔して中2病なんだなと思って』

「ふざけんな。大真面目だ」

『ツナっていい奴だよな。もちろん武もな』





なんだこいつ急に……。



しかし自分の主を褒められて悪い気がする奴はいないのと同じように、こんな奴にでも10代目の素晴らしさはやはり伝わるものなのだと思うとつくづく10代目というお方は素晴らしい方なのだと痛感する。




テストの件に関して案外ちゃんと感謝しているらしいこの女。

そんな態度や素振りが一ミリも見受けられなかった為、当然だとでも思っているのかと思ったのだがそうではないらしい。




『普通だったら面倒見きれねぇって切り捨てるだろ?でもあいつらそれからは毎回頼みもしねーのにノート用意してさ。バカだよなー』

「…………」





そう言う名字は、どこか嬉しそうで。

この時ばかりは大人しかったこともあって、ちゃんと女に見えた。





『あ!やっべぇ!!おまえのせいで休憩時間過ぎてんじゃねぇかよ!』

「はぁ?俺のせいじゃねーだろ別に」

『おまえが構って欲しそうだったから、相手してやってたんだろーが。あー、ばぁちゃんに怒られる!じゃーな!』





野菜食えよー!と、意味不明な挨拶を残して走り去っていった変な女。本当に台風みたいな奴だ。







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