medium story
大きな台風
「どうかなさいました?10代目」
「いや、もうすぐテストが始まる時間なのに名字来ないなって…」
「本当に来るんすか?その名字って奴」
獄寺くんはあぁ言うけど名字がテストの日に休んだことはない、らしい。山本が言うんだからそうなんだろう。
テスト前の休み時間は最後のあがきとばかりにみんな必死で教科書を睨み付けている。
俺と山本もあがかなきゃいけない組なんだけど未だに教室に現れない友人が気になってそれどころじゃない。
まさかテストの存在忘れてるとか?
いやいや、そんなはずはない。
昨日わざわざ電話で教えてやったのに、『そんなの言われなくても知ってる』と言われたあげくちゃんと勉強してんのかと逆に心配までされた。
教員が教室にやってきたことでしぶしぶ席に戻っていく生徒達といつものように座ってくれる人のいない名字の席。
「なんだ、名字は休みか?」
「や、先生あいつなら来るって!な、ツナ!?」
「え、あ、はい!たぶん…」
「そうは言ってもあと3分くらいしか待ってやれないぞ」
何やってんだよ名字の奴!山本が机の下で携帯をいじってるからきっと連絡してるんだと思う。携帯しまえー。と注意を受けてしまい電源を切りざるを得なくなってとうとう最後の生徒までプリントが回ってしまった時だった。
『ギリギリセーフ』
「名字!」
「何がセーフだ早く席に着け」
『先生久しぶりー。あ、今からなんの教科?」
「現代社会だ!早くしろ!」
な、なんとか間に合った。本人に焦ってる様子は全くないしあいつはいつもそうだ。周りを巻き込む台風の目のくせに本人に決してそんなつもりはなくて、なんて言うか誰もが名字のペースに飲まれちゃうんだよな。
「来ないのかと思ったよ」
『ツナじゃねぇんだから間に合うし』
「俺が遅刻してるみたいな言い方やめてくれる!?」
「最近のツナは遅刻しねぇよな」
「つーか、何ナチュラルに一緒に飯食ってんだよ!」
何か問題でもと言いたげに眉間に寄せられたシワ。その後一言『はぁ?』とガンつけられた。喧嘩売ってんのかこいつ。
『誰と食おうがお前に関係ねーよ』
「それが10代目となれば話は別なんだよ」
『10代目?』
ツナのことな!って補足を加えた山本の言葉に盛大に笑った目の前の女。
言葉遣いはまるで男。
あの商店街の八百屋の女だ。間違いねぇ。まさか、もう会うことはねぇと思ってたんだがこんなに早く会うことになるとは…。
何よりも驚いたのはうちのクラスの不登校がこいつだったってことだ。
てっきりクラスに馴染めなかった暗い奴(男)だと思っていた。それがまさかこんな奴(女)だったとはな。
『おい、食い逃げ野郎金払えよ』
「だからこの間のあれはてめーが…!」
「え、獄寺くん…食い逃げ!?」
「ち、違います!こいつが勝手に!」
(バナナ突っ込んでやった!)
(何してんだよ!)
(相変わらずだな〜名字)
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