medium story
小さな疎外感
「10代目、携帯鳴ってません?」
「え!?あ、本当だ…げ」
「どうしたんすか!?」
ツナの制服のポケットで着信の存在を知らせるバイブレーションが鳴り響く。
携帯を取り出してディスプレイを確認したツナが出るのを渋るなんて相当だ。山本もめずらしそうにツナをみる。
「もしもし?あー、ごめんごめん。ノートでしょ?え?だってもうすぐテストだし。うん。え、なんでオレが!?…はぁ、分かったよ」
「ツナ俺も話してーのな」
「山本が代わってだって」
「お、サンキュー」
な、なんだ……。
この言いようのない疎外感。
10代目から携帯を譲り受けた山本は空いている席に腰掛け何やら楽しそうに会話をしている。10代目も渋ったわりに普通というか、そもそも誰からの電話か2人だけが分かっているという事実。10代目の右腕として何事も山本より劣るのは気に入らなかった。
「おう、じゃあな。いいのかよ!ハハッ、おう!」
「え、切ったの?」
「あいつ代わんなくていいって言うからさ」
「まったく相変わらずだよな」
「あの…!10代目?」
電話の相手は誰ですか?なんてどこぞの束縛彼女じゃあるまいし呼んだはいいけど口ごもる。
でも気になる。
そんな葛藤がうまい具合に10代目に伝わったらしい。「あぁ!」と呟き獄寺に向き直る。
「さっきの電話はね、ほら名字だよ」
「名字?…あぁ、不登校の」
「不登校って…」
獄寺くんの失礼な覚え方も仕方ないと言えば仕方ない。きっと彼は見たこともないんだろう名字を。
電話をかけてきたのはクラスメートの名字。
もうすぐそこまで迫っているテストの範囲分のノートを見せろ、そんな内容の電話だった。
中学時代からあまり学校にこない名字にノートを見せろと脅されることがよくあった。この時期にかかってくる名字からの電話はほぼ100%ノートを見せろだのプリントを持ってこいだのといった脅迫電話なのだから出たくもなくなるというものだ。
「ってわけだから今日は先帰っていいよ」
「ツナが持ってくのか?」
「うん。今手離せないんだって」
「どうせ暇なくせにな!」
「ほんとだよ…」
な、なんて奴だ!
不登校なうえに出不精でそのうえ10代目をこき使うなんざいい度胸してんじゃねぇか。俺が右腕として一発シメとくか…とは言え見たことない野郎をシメるわけにもいかねぇしな。
お付き合いしますと名乗り出てはみたものの10代目のお気遣いで断られてしまった。
まぁ、どうせテストは受ける気らしい。
その時にでも遅くないだろう。
10代目の右腕として挨拶してやろう。
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