medium story
大きな勘違い
「また来てないね、名字」
「そうだなー」
「……10代目、誰っすか名字って」
二人の声がえぇ!?と被った。
クラスメートを知らないのは獄寺の興味がもっぱら10代目であるツナにしかないからであって、獄寺の学校生活は10代目とその他、ときどき野球馬鹿と言ったところだ。
話題に上がった名字とやらは今日もこないという表現から察するにあまり学校にこないいわゆる不登校。
学校に来ても寝ているかシャマルのいる保健室か屋上に行く獄寺が知らないのも当然と言えば当然だった。
「一応並中なんだけどね名字」
「そうなんすか!?知らねえっすね」
「あ、俺小学校も一緒だぜ」
並中だったと聞いても思い当たる人物がいない。
それほど目立たない、あるいは学校に来ていない人物なのだろう。
朝のHR、よくよく見れば空いている席が1つ。その席にどんな奴が座っていたのかも思い出せないということは、そこがあの名字という奴の席なんだろう。
まぁ不登校の奴のことなんていちいち気にしていられない。だいたい10代目に害を及ぼさなければなんだっていい。そう、害を及ぼさなければよかったんだ。
名字とやらの話を聞いた日から何日経っただろう。相変わらず登校する様子はなく、空いたままの席が賑やかな教室にぽつりと浮かぶ。
きっと今頃学校に来たってクラスに馴染めずにあの席のように寂しく過ごすことになるだろう。どんな理由であれ一度不登校になってしまったら行きづらくなってしまうもので、再び学校に来るにはとてもたくさんの勇気が必要だ。案外一度来てしまえば来られるようになる場合と、二度と来なくなる場合の二つだ。
獄寺は名字という生徒の存在すらも忘れかけていた。なんと言っても見たことがないのだから、覚えておくほうが難しいかもしれない。
今日もいつものように保健室でサボる獄寺にシャマルが問いかけた。
「そういえばおまえ名字と同じクラスだろ?相変わらず来てねぇのか?」
「あぁ?誰だよ名字って」
「おいおい、クラスメートの名前くらい覚えとけよ。男の身だしなみだぜ」
「…あぁ10代目が仰ってた。不登校の柔な奴だろ」
「…柔?」
獄寺の中で不登校の名字はそれだけで柔な奴というイメージだった。虐められて学校に来れなくなるというおきまりのパターンを想像しているのだろう。
「虐められて不登校なんじゃねぇのか?」
「高校生にもなって虐めなんか滅多にねぇだろ」
「ま、関係ねーけど」
そう言うとベッドに潜り込み眠る体制を取り始めた獄寺をシャマルが見つめため息を吐いた。
大きな勘違い
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