medium story
06
「ねぇ名前、今日って獄寺くん出る日じゃないよね?」
『外出の予定はないはずですけど』
「やっぱり…」
『どうかしました?』
コンコン
ノックをしてみてもやっぱり返事はなくて他の部屋を探そうかとドアノブを掴んでいた手を離した時だった。
「うっ…」
『ん?』
小さな呻き声の後何かが落ちる音がした。
慌ててドアノブを回したが鍵がかかっていて開かない。そんな時の為にと持っていた数十個にもなるスペアキーの中から必死に部屋の鍵を探す。人は焦ると通常通りの行動ができなくなるもので、冷静になればすぐ見付かるはずのスペアキーを探すのにも鍵穴にさすのにもいつも以上に時間がかかった。
『獄寺!?』
「………あぁ」
『え、大丈夫!?ちょ、どうしよう!』
ベッドから出ようとしたものの身体が言うことをきかなかったのか半分以上落ちた状態でぐったりとしている獄寺を見付て慌てて近寄った。
返事をするのもやっとと言った感じで、チラリと見えた顔は赤く熱があるのがすぐに分かった。
力の抜けている獄寺を引きずるようにベッドに戻しタオルを探しに脱衣所へ。
こんなになるまで身体の異変に気付かないなんて普段どれだけ多忙なスケジュールを組んでいるんだろう。任務のスケジュールだけでも獄寺は特に忙しいのにきっと彼のことだから他にもいろいろと仕事をしていてほとんど休息らしい休息もとっていないんじゃないだろうか。
額に濡らしたタオルを乗せればその冷たさに少し顔を歪ませた後気持ちよさそうに表情を和らげていった。
それでも荒い呼吸は熱を持ちこれがただの風邪じゃないことも考えられる。
『やっぱり医務室の先生を呼んでこよう』
誰に言うでもなく呟きベッドの側にしゃがんでいた身体を起こそうとベッドに手を付いたわたしの腕を、風邪のせいで熱を持ち熱くなった獄寺の手が掴んだ。
『うわ!びっくりした…』
「…名前、か?」
『え…あ、うん』
「なんか……だりぃ」
『熱が、あるみたいなの。あの!わたし先生呼んでくるよ』
「こんくらい…寝てりゃ、治る…」
え、えっと!おーい!!
心の叫びは言葉にならず傍らで悶えるわたしを置いて獄寺は眠りについてしまった。
まさに言い逃げ。下の名前で呼ばれるなんていつぶりだろう。
早く先生に看てもらわないとと思いながらも掴む獄寺の手を解くこともできずに、その場で立ち尽くす。
そんなわたしをよそに獄寺はまだ少し荒いが寝息を立て始め、もうすっかり夢の中。
いつも眉間に皺を寄せ難しい顔をすることが多くなった獄寺の、こんなにあどけない表情を見るのはすごく久しぶりでなんだかあの頃に戻ったような気がした。
先生を呼ぶのは獄寺が次に起きた時でいいか。
立ちかけていた腰を再び下ろしベッドサイドにぺたりと座る。こうしてるとうるさかった獄寺のままなんだけどな。
…名前、か?
…っちょっとちょっと!
なんで今思い出すんだ!!
掴まれたままの左腕は熱を持つ獄寺の手から伝わる熱でじんわりと暖かい。
しかしそれ以上にわたしの頬は熱を持ちきっと今は赤いんだろうな。風邪でも移されたかな?
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