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05
名前と入れ違いでやってきたスクアーロが、部屋のソファーにどかりと座る。相変わらず態度でけーのな。
「あいつは戻ったのかぁ?」
「あぁ名前なら獄寺に謝りに行ったぜ」
「ふん。謝る必要なんざねぇ!ありゃ、ただの嫉妬だぁ」
「嫉妬?」
ベルフェゴールのナイフから守るために名前を抱きしめた自分と、会議室で名前と仲がよさそうに話すベルフェゴールへの嫉妬だとスクアーロは言う。
「まったくいい迷惑だぜぇ。ベルの野郎はおもしろがってわざと見せつけるようなマネしやがるからな゙ぁ」
「獄寺もきっと昔みたいにしてーんだろうな」
「そんなことどうでもいいんだぁ。勝負するぞ山本武ぃ!!」
「負けたら飯奢りな!」
俺もツナもあいつら二人がよそよそしいのはなんかしっくりこねぇし、できれば昔みたいに楽しくやりたいって思う。
お互い無理によそよそしく振る舞って楽しかったあの頃をまるでなかったかのようにしてしまうのはなんか理由でもあんのかな。
『失礼します』
「あいつらならもう帰ったぜ」
『そうですか…』
「………………」
『あの!先程は申し訳ありませんでした』
「…あぁ。俺も、その、悪かったな!怒鳴ったりして」
『……ふっ』
獄寺が謝るなんて今まで数え切れないくらいした喧嘩の中でも数えるほどしかなくて。
眉間に皺を寄せて目線を泳がせながら謝る姿は学生時代と何も変わっていなかった。その姿に無性に安心したのと同時におかしくてつい笑ってしまった。
堪えきれずにクスクスと笑うわたしに気付きこちらを向いた獄寺と漸く視線が交わった。
「何笑ってんだよ」
『ごめんなさい。謝るとは思ってなかったので』
「俺が謝っちゃわりぃかよ」
『そんなことないですけど』
慣れてしまった敬語は相変わらず抜けなかったけど、仕事以外の話をしたのもなんだか久しぶりで新鮮な感じがした。
いつまでも笑うわたしと笑われて少し不機嫌な獄寺。あれは本気で怒ってるわけじゃない。照れ隠しだ。変わってしまったとばかり思っていた獄寺に学生時代の面影がまだ残っている。それが知れただけでも満足だ。
煙草を消し席を立った獄寺の為にドアを開け待機する。
通り過ぎざまに言われたことばの意味がよく分からなくてとりあえず返事をするわたしに獄寺は少し諦めたような笑みをもらし去っていく。その背中を眺めながら言われた言葉の意味を考えたが、やっぱり分からなかった。
「あんまふらふらすんじゃねぇよ」
『?はい』
言っても無駄か。昔からふらふらしてる奴に今更何言ったって変わらない。
学生時代のあいつはよく俺に突っかかってくるようなうるさい女だった。
好きな奴ができるといつも真っ直ぐで周りが見えなくなる危なっかしい女。何故か男と長続きしない名前が俺を見ることはなかったけど、だからこそ今でもこうして同じ職場で働くことができているんだと思う。
名前が敬語を使い始め俺に部下として接するようになったあたりから、なんだか距離があいたように遠くなっていった。
相変わらず山本や雲雀には馴れ馴れしく、楽しそうにするくせに俺の前ではそんな姿見せもしない。仕事を淡々とこなす優秀な秘書だった。
ナイフ野郎が俺に気付いてわざとナイフを投げたのには気付いていた。咄嗟のことに反応できなかった自分の代わりに名前を庇ったスクアーロには感謝してやってもいいが、いつまでも抱きしめられたままのあいつが気に入らない。
ベルフェゴールが至近距離にいようが真っ直ぐ見つめ返しやがって、少しは警戒して後ずさるとかねぇのかよ。
簡単に自分に触れさせる名前にその気はなくとも、過去に勘違いした男はたくさんいた。気付いたら怒鳴っていて驚いたあいつが逃げるようにして会議室から出て行くのをただ黙ってみることしかできなかった。
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