medium story
04
『うわっ』
「おっと!」
会議室からお盆片手に全力疾走をかますわたしは、曲がり角で人とぶつかりかけるというドラマチックな失態をやらかした。
すっ転びかけたわたしの腕を掴み上げなんとか転ばないよう引き上げてくれたのは、雨の守護者でありツナや獄寺と同じく中学時代からの同級生山本だった。
『ありがとう山本!転ぶところだったよ』
「おっちょこちょいなのな〜名前は」
『ちょっと急いでてね』
笑いながら体制を戻しやすいように支えてくれる山本には、昔のように話している。
以前敬語を遣った時に物凄く不機嫌になられてそれからはふつうにするよう心がけた。わたしとしても堅苦しい敬語を遣う相手は少ないほうがいいし、昔のように常に素を出すことができる相手がいることはすごく安心感を得られた。
山本には慣れない仕事でドジをしてみんなに迷惑をかけた時慰めてもらったりしている。それも昔から変わらない。
『獄寺にそんなんだからふられるんだって言われた!』
「まぁまぁ名前、落ち着けって」
『そんなんだからって獄寺だけには言われたくないし!あいつもこの前ふられたばっかじゃん』
「名前も獄寺も長続きしないのな〜」
『あーもう!当分恋愛はいい』
「じゃ、獄寺も誘ってぱーっと遊ぶか!」
『カラオケ!』
「はいはい」
ふと、学生時代を思い出す。
山本とわたしの関係はあの時のまま変わらないのに、そこに獄寺の姿はなくて。
獄寺がいないだけで随分わたし達も大人しくなるものだなぁなんて思ったりもした。そりゃ大人になるにつれて子供の頃のように馬鹿騒ぎはしなくなるものだけど、たまに山本とする思い出話の中には獄寺の話題がたくさん出てくるのに、今この場に獄寺がいないのはすごく寂しいことのように感じる。
「なんかあったのか?」
『え?』
「名前は分かりやすいからな」
黙ったまま難しい顔でもしていたのだろうか。山本はいつもわたしの異変にすぐ気が付き話を聞いてくれる。アドバイスをくれるわけでも優しい言葉をくれるわけでもないけど、わたしの気の済むまで話を聞いてくれて一緒に憂さ晴らしにも付き合ってくれる親友だとわたしは思ってる。
不思議と山本にはなんでも話せてしまうのは、彼の人柄のおかげだと思う。
山本の部屋に移動しツナとの会話や先ほど会議室で怒られてしまった話をする。
確かに獄寺とスクアーロは大事な任務の話をしていたわけだから関係ないにしても側でふざけられたら怒るに決まってる。
時間が経つにつれて自分のしてしまったことに気付いて冷や汗が流れる。もう遅いのに。
いつも守護者として活躍するみんなが羨ましかった。それでも戦うこともできないし特別頭がいいわけでもなくて、誰でもできるような書類整理や任務のスケジュール管理、お茶だしといった秘書のようなことをしていた。
だから人一倍みんなに迷惑をかけることはしないように、忙しいみんなのサポートが少しでもできるようにと思って仕事に励んできたつもりだった。
それが話し声で邪魔をするなんてもってのほかだ。
「そんな落ち込むなって。名前は気が利くし俺は助かってるぜ」
『でも…』
「ベルフェゴールが言ってたように機嫌が悪かっただけかもしんねーしさ!」
『そうかな…。とりあえずそろそろ時間だしもう一度きちんと謝ってみるよ』
「おう、がんばれよ」
まだ話し合いは続いているだろうか。もう終わって誰も残っていないだろうか。
少しドキドキしながら会議室のドアをノックし顔を覗かせる。
…………獄寺。
会議室にいたのは煙草をふかす獄寺ただ一人だけだった。
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