medium story
02
『あ、いけない!そろそろ失礼します10代目』
「あ、仕事モードになった」
『からかわないでください』
つい昔話に花が咲き長話をしてしまうのもここではいつものことで、昔と変わらず接してくれるみんなの優しさが嬉しくもあった。
『わざわざお越しくださりありがとうございます』
「ほんっと、王子がわざわざ足運ぶとか超レアじゃね?」
「ゔぉお゙い!別に俺一人でよかったんだぁ!!来たいっつったのはてめぇだろぉ」
相変わらず怖い。
いつもだったらヴァリアーの下っ端が持ってくるような書類を、何故わざわざ幹部であるスクアーロとベルフェゴールが持ってきたのか。
きっと任務のことで守護者の誰かに用があるか、山本と暇潰しと称した修行でもしにきたのだろう。どちらの理由も当てはまるのはスクアーロだけで、ベルフェゴールは本当にただの暇潰しなのだから困る。
わざわざこうして玄関まで迎えに行ったのも本部をあちこち歩き回られて雲雀さんにでも出会したらそれこそただじゃ済まないからである。事前に連絡を入れてくれたスクアーロには感謝してもしきれない。きっとスクアーロもそうなることが分かっていたのだろう。
『山本なら部屋で寝てると思いますけど、起こしますか?』
「いや、いい。今日は獄寺に用があんだぁ」
「ししっ」
《獄寺》の名前に肩がびくりと揺れてしまった。あれもこれも全部ツナがおかしなこと聞いてくるからだ。どうなのって、どうもこうもないわ!!
肩が揺れたのに目敏く気付いたのはベルフェゴール。
「お前《ゴクデラ》となんかあったわけ?」
『別に何もありませんけど』
ツナにも言ったが本当に何もない。
昔はよく一緒に授業をサボったり、夜遅くまで山本のうちで遊んだりしたものだけど、大人になってから、というかマフィアとして本格的に働くようになってから、わたし達の関係は上司と部下。それ以上でもそれ以下でもないし、端から見たら友達だった過去すらないような雰囲気だ。
くだらないことで言い合いをしたりすることもなくなった。ないとないで少し寂しく思ったりしていた時期もあったけど、それも今となってはすっかり慣れてしまった。
『会議室にご案内します。そちらでお待ちください』
「あぁ、わりぃなぁ」
「王子牛乳飲みたい」
『はいはい』
「お前王子には生意気ー」
何が気に入らなかったのかナイフを投げて寄越すベルフェゴールから自分の命を必死に守りながら会議室まで案内をする。たぶんだいぶ手加減して投げているのだろう。なんせわたしが避けられる程度なのだから。
それでもわたしにとっては命懸けで神経を尖らせながらの会議室までの道のりはいつもの倍は長く感じられた。
疲れてきたのでスクアーロの背中に回り込み、スクアーロを楯にした。
「ゔぉおい、俺を巻き込むなぁ!!」
『そんなこと言わないでベルさん止めてくださいよ!』
「カス鮫隊長、邪魔すんなし」
「ゔぉっ!お前本気じゃねぇか!」
たかが会議室に行くのに何してんだろわたし達。
投げるのに飽きたのかやめたベルフェゴールが頭の後ろで腕を組みながら前を行く。
スクアーロの背中にしがみつきながら道筋を口で伝えていくわたしの頭上にいい加減離れろと言葉を落とすものの、無理やり剥がしたりはしないスクアーロはヴァリアー1の常識人ではないだろうか。
やっと会議室の扉が目で確認できる位置にやってきたので、スクアーロの背中から離れ隣に並ぶ。先を行くベルフェゴールは既に到着していた。
「遅いっつーのっと」
『う、わぁっ!?』
「ゔぉっ」
完全に気を抜いていたわたしに最後の一撃を投げて寄越したベルフェゴールはとても楽しそうに笑っていたような気がする。
そんなことを確認する余裕もなかったわたしは目の前に迫ったナイフに腕をクロスし顔の前で構えることしかできなかった。
顔に刺さるくらいなら腕に刺さったほうがいいと思った。腕に走るはずの痛みを目を瞑り必死に耐えようとしたのだが、いつまで経っても痛みはない。
恐る恐る目をあけて漸くスクアーロが右腕であたしを守るように抱き込み、左手の剣でナイフを弾き落としてくれたんだと気付く。
「おめぇら、何やってんだよ」
「あ、《ゴクデラ》登場ー!」
驚きで放心状態のあたしとあたしを抱きしめたままベルフェゴールを怒鳴るスクアーロ。
廊下の曲がり角からいきなり現れた獄寺にいつまでも楽しそうなベルフェゴール。
もう、疲れた。
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