medium story



 




「ゔぉぉい!泣き虫はいつまで経っても変わらねえなぁ」

『え?』

「迎えに来たぜぇ、名前」































忘れたいと思ったことなんて一度もなかったけれど、記憶の中のスクアーロよりも幾分か低くなった声は聞き間違いなんじゃないかと思った。



あれから12年、一度も姿を現さなかったスクアーロ。

スクアーロが座っていた木ももうない。



それでも聞こえた懐かしい声につられて顔を上げれば月明かりに照らされた綺麗な銀髪と、あの意地悪そうな笑みのスクアーロがいた。

間違いない。本物だ。

ここ3階だよなんて今はどうでもいい話。




スクアーロが目の前にいる。ただそれだけでよかった。

いつかみたいに涙は驚きで引っ込んで、ぽかんとするわたしを見てまたスクアーロは笑った。





『スクアーロ』

「なんだぁ?」

『迎えに来たって?』

「そのまんまの意味だぁ」

『でもわたし今日嫁ぐんだよ』

「知ってる」






あぁ、スクアーロはこれくらいの壁どうってことないんだった。簡単に言いのけるスクアーロから勇気をもらった気がした。



『スクアーロ、ずっと昔から好きでした。わたしをここから連れ去って?』

「望むところだぜぇ、お姫様」





連れ去られたお姫様が不幸なんて誰が決めたの?



(今日からわたしは自由な鳥)





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