medium story
た
彼のお気に入りの木は2年前の嵐の時に折れてしまったので、今は跡形もない。
今でも目を閉じれば意地悪そうな笑い方の彼が、枝に座ってこっちを見ている気がしてしょうがない。見晴らしのよくなった窓からは今まで飛ぼうともしなかった青空が広がっていた。
彼の活躍は新聞等で目にする程度になってしまった。
あまり評判のよくないヴァリアーのNo.2をしている彼は、やはりあまりいいことは書かれていないけれど、元から勘違いをされることが多かった彼のことだから何を書かれようとあまり気にしないでしょう。本当は優しくて面倒見がいいことはわたしの胸の中に大事に閉まっておこうと思っています。
それまで大きく一面を飾ることのなかったヴァリアーが、二年ほど前大々的に取り上げられたことがありました。
遠い異国の地、ジャッポーネでの相続争い。
ヴァリアーの方達はジャッポーネの中学生に負けてしまい、それぞれ命に別状はないものの酷い怪我を負ったと書かれた一面を見た時には、心臓がこれまでにないくらい速く脈打つのを感じました。
彼は無事なのか。
今後の生活に支障の出る怪我ではないのか。
わたしなんかが心配してもどうにもならないことなのに、頭の中はそればっかりで何も手に付かなくなりました。
それでも生きていてくれてよかったと安心しました。
ちょうどあの木がなくなったのと同じ時期の事件でした。
(吐き出す場所のない痛み)
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