medium story



 



彼のお気に入りの場所はわたしの部屋の窓のすぐ側の木の上でした。






































内気な性格のわたしは部屋で読書をしたり、ヴァイオリンを弾いたり、お菓子を作ったり。とにかく家の中で静かに過ごすことが好きでした。



その日も部屋で読書をしていたわたしの耳に、カツンと何かが当たる音が聞こえ読みかけの本から視線を上げました。

どこから音がするんだろう。

あたりをきょろきょろ見渡すわたしの耳にもう一度カツンという音が聞こえ、窓の外に目をやればいつかに助けてくれた男の子が大きな木の枝に座っているのが見えました。とてもとても大きな木で、木登りしようなどとも思ったことがなかったわたしには衝撃的すぎる登場でした。









「よぉ」

『今日はクッキー焼いたんだよ』

「俺にも食わせろ」

『ちゃんとあるよ』





それから男の子は度々顔を見せに来てくれるようになりました。

次に会う約束なんてしないから来るのはいつでも突然で、お菓子が用意できない日もあったけど、男の子は怒るわけでもなく帰るわけでもなく話し相手をしてくれました。


わたしが弾くヴァイオリンの音色を子守歌に木の枝でお昼寝をしたり、面白かった本を勧めたら読めと言われたので読んで聞かせてあげたり。はたまた年上と喧嘩して勝ったという武勇伝を聞いたり。いつの間にか男の子とお話するのが楽しみで仕方なくなっていました。



(待ち合わせは木の上で)





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