medium story

あたしの笑顔で君も



 




初めて一緒に帰ったのは、雲雀さんに捕まったところを助けてもらった時でした。


思えばあの時も、あたしが言えない言葉を代わりに言ってくれたね。


人見知りのあたしはあの時きっと、まともに話せていなかったんじゃないかと思う。実は緊張しすぎてあんまりよく覚えていない。



それがきっかけで、朝には挨拶をするようにもなったし、帰り際に目が会えばじゃーなと声をかけてくれるようになって、自分に向けられる笑顔に心がほんわかするのが、最近になって分かったような気がした。




2回目に帰った時にはあたしのことも少し話せることができた。ダンスのこと大会のこと。まだ話すようになって間もないのに、こんな風に自分の話ができるなんて、これも山本くんの人柄のおかげかなと思った。



緊張していた激励会の直前、ステージの山本くんの笑顔を見たら、なんだか緊張が解けたような気がした。



気付けば目で追っていたのは、一体いつからだろう。いつでも元気で、周りにも元気が伝染してしまうように、山本くんの周りは笑顔で溢れていた。

羨ましいなと思っていたのかもしれない。



あたしのダンスを楽しみだと言ってくれた山本くんに、あたしのダンスで、あたしの笑顔で、笑顔になってもらいたいと思ったのもその時かもしれない。



あれから山本くんはすぐに来た。なんだか急がせちゃって申し訳ない。


とことことのんびり歩いて帰る道のりは、今日で3回目。まさかあの山本くんと、こうして帰るようになるなんて思ってもいなかった。



山本くんは1番に言いたかったんだと少し拗ねながら、激励会の感想を教えてくれた。ドキドキ鳴るこの心臓は、感想を言われることに対しての緊張か。それともこの状況に対してなのか。



「名字の笑顔がキラキラしててさ!俺始まるまでめっちゃ緊張してたんだけど、すっげー楽しかったのな!俺まで笑顔になれるっつーか?」



その後も腕がパシッと!とか、あの技なんて言うんだ?とか、興奮ぎみな山本くん。

なんだかおかしくて笑ったら、山本くんも恥ずかしそうに笑ってくれた。




『うまかったとか、かっこよかったって、言ってくれた人はたくさんいたけど…、笑顔になれたって、言ってくれたのは、山本くんだけだよ』



今日もあたしの言いたいことを言ってくれた。知らない間にいつも山本くんには助けられている。





「俺さ…。」



立ち止まった山本くんにつられて、あたしも立ち止まる。並んで歩いていたから、たまに横顔を見上げる程度だったけど、向かい合えば自然と顔を見合わせる形になる。

見上げた山本くんの顔はなんだかすごく真剣で、目が離せなくなった。






「俺、名字が笑うと俺まで嬉しくなるんだよな。踊ってる時の楽しそうな笑顔でも、普段のふんわり笑う顔も。」

『…………』

「名字には笑顔が似合うと思うし、笑っていて欲しいと思ったんだよな!……その、俺の隣で」

『え?えと、あの…え!?』




少しあいている2人の距離を、ゆっくりした歩調で縮める山本くん。

背が高いから近くにくればくる程、見上げる形になってしまう。


目の前まできた山本くんは、んーとかあぁーとか言いながら、髪の毛をくしゃくしゃっとした。

そして再びあたしに目を合わせた時の、真剣な眼差しに心臓がドキンとなったのが分かる。







「好きなんだと思う、名字のこと。きっと、初めてみた時からさ」



『あ、あたしも!山本くんの笑顔見ると、ほんわか、するんだ!一緒に笑い合えたらなって、思い…ます、です。はい。』






あたしの笑顔で山本くんが。

山本くんの笑顔であたしが。




こんな幸せなことあっていいのだろうか。








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