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俺の専属チアガール






活気溢れる大きな体育館。2階席には観覧席が用意されている。




「ツナ!今踊ってんの何番だ!?」

「28番だよ、山本」

「1校踊る度に聞いてくんじゃねーよ!!」

「まぁまぁ獄寺くん。きっと山本緊張してるんだよ」






さっきからそわそわして落ち着きのない山本。まるで自分の事のように緊張しまくりだ。

踊るのは名字さんなのに。





「並中33番だよな!?俺、今のうちに便所行ってくる!」



こんなに落ち着きのない山本は見たことがなくて、失礼だけどおもしろい。

「あいつガキみたいっすね」

「この一週間ずっと楽しみにしてたからね」








トイレを済ませ体育館へと急ぎ足で戻る。

始まっちまったら嫌だもんな!


『山本くん!』



呼ばれて振り返ればユニホームにポニーテール姿の名字がいた。

本番直前なのだろう。あの自信に満ちあふれている顔だ。頬がピンクでかわいいな。



『山本くん、どの辺に座ってる?』

「ん?ほぼ真ん中だぜ」

『分かった、ありがとう!』



お楽しみだよ!と笑う彼女は、いたずらする前のような子供らしい笑い方をした。

どんどん知らなかった名字を知っていく。

見かけに寄らず負けず嫌いなところ。

実はツッコミ気質なところ。

慣れた相手にはたくさん笑うところ。



もっと知りたいと思う。俺のこともたくさん知ってもらいたい。




「応援してっから。がんばれよ!」

『うん!やれるだけのことはしたし、楽しんでくるね』



こんな広いところでこれから踊るというのに、楽しんでくると心から言える彼女は、強いと思った。

その顔は自信に満ち溢れていて輝いて見える。



最後に髪を崩さないようにぽんぽんっとしてやれば、照れたように笑う。

あー本当にかわいいな。






エントリーナンバー33、並盛中学校チアダンス部、【beams】!



アナウンスと共に走って入場してきた選手達。飛び跳ねたり、脚を上げたり技を繰り出したりして会場の観客を煽る。

俺は名字を探してキョロキョロしていた。



「あ!ねぇねぇ山本!!」


ツナに引っ張られそちらを向くと、こちらに向かって手を振り飛び跳ねる名字がいた。


あっちにも俺らが見えているのだろう。目が合えば嬉しそうに笑い、ターンを3回した後にかわいいポーズをしてくれた。




ずっきゅん!

例えるならそんな感じ。なんだあのかわいい生き物は!



「俺ダメだ…。名字かわいすぎて最後まで見れる自信ない」

「ちょっと山本!本番はこれからなんだから」



暫くすると散らばっていた選手達は自分の位置に着き構える。

会場がしんと静まり返った所で流れ出す軽快なメロディー。



激励会の時のステージで踊るのとは比べものにならなかった。

広い体育館でのびのびと踊り、まるでひとつの生き物のようにぴったりと息の合った隊形移動。


曲調で変わる名字の表情にドキッとした。

楽しそうに口を開けて笑っていたと思えば、迫力のある場面では挑戦的な表情。



目が離せなかった。












「名字!」



待ちきれなくて演技が終わった後すぐに駆け出した。

退場してきた名字達は踊り終わった達成感からか泣いている奴もいる。



名前を呼べばこちらに駆け寄ってくる名字。
『どうだったかな?』

「すっごく楽しそうに踊ってたぜ!」

『うん、すっごく楽しかった!』




へへへっと笑う彼女はいつだって俺に笑顔をくれる。

君の笑顔は俺のもの!






   「専属チアガール!」完



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