medium story

待つばかりのあたし



 




朝から山本がそわそわしていて落ち着きがない。



昨日の激励会の、チアダンス部の発表はすごく盛り上がった。
可愛い人が集まるとは聞いてたけど、あのユニホームにポニーテールは確かに反則だと思う。京子ちゃんが着たらやばいんだろうなー…って、違う違う!!



とにかく男子の盛り上がりがハンパなかった。



山本が最近なかよくなった名字さんは、クラスではおとなしいほうで優しそうにふんわり笑う子。だけど昨日の激励会では、顔がくしゃくしゃになるくらいの満面の笑みで、魅力的だと思った。







今日の朝からチア部の周りには人がたくさん集まっていて、昨日すごかったよ!かっこよかったー!なんて声が聞こえてくる。


山本は気になるみたいで、そちらをちらちら見ているのに行こうとはしない。いつもの山本なら、あの輪の中に入るくらいわけないと思うんだけどな。





「そんなに気にしてるなら山本も行ってきたらいんじゃない?」

「いや、なんつーか。今はちげえっつーか」

「なんだよ山本。いつもは天然たらしのくせに意識した途端これかよ」

「え、山本好きだったの!?」

「んー‥。」
どうなんだろうな〜なんて言いながら難しい顔をする山本。



誰とでもなかよくなれる山本だから、名字さんとなかよくなったのも特別な意味はないと思っていた。

でも確かに、昨日の激励会は盛り上がるものだったけど山本は、騒いだりせずただただ真剣に演技を見ていた。

どこか見守るようにも見えた。


踊りを見終わった後の山本は、すげーすげーを連発。自分のことのように楽しそうに、名字さんを褒めていた。案外、これもありなのかもしれないな。





「名字さんってダンスうまいんだね!」




激励会の翌日学校に行けばクラスメートに囲まれた。

チア部の友人も褒められて嬉しそうにしてるし、あたしも今まで頑張ってきたものを褒めてもらえて素直に嬉しい。



昨日の激励会であたしがチア部だと初めて知った人も多いようで、なんだかいろんな人に話しかけてもらった。



ふと気が付けば、褒めてくれるクラスメートの中に山本くんの姿を捜している自分がいて、踊って欲しいと言ってくれた山本くんに、あたしは激励会まで待って欲しいと伝えた。



ステージの上からは自分自身がライトに照らされて観客の顔までは見えなかったが、歓声や名前を呼んでくれる友人の声から、盛り上がってくれていることは伝わった。



山本くんもどこかで見てくれているかな?



踊りながらそんな風に思う自分がいた。









「名前先輩、名前先輩ッ!!山本先輩とはどうゆう関係ですか!?」

『え、えぇ!?い、いきなり何?』

「昨日先輩達が帰った後に山本先輩が名前先輩に会いに来たんですよ」




昨日?


結局山本くんとは話ができないまま部活の時間になってしまった。


心のどこかで山本くんが話しかけてくれるのを待っていたのかもしれない。


少しがっかりしている自分がいることにびっくりした。



昨日は少し早く部活が終わってしまったから、山本くんと入れ違いになってしまったみたいだ。

山本くんは誰よりも早く会いに来てくれていた。




そのことがたまらなく嬉しくて、心がほんわかした気分になった。


いつも山本くんが剣道場まで来てくれて、山本くんがきっかけを作ってくれたおかげで、話ができるようなものだった。


話したい。


自分から思うのは初めてかもしれない。人見知りのあたしが誰かと話したいと、思うこと自体珍しいわけでこの気持ちがなんなのかも分からない。



うじうじした自分の殻を破ってみようと思えたのは、山本くんのおかげかもしれない。










prev|next

[戻る]
- ナノ -