medium story
少しずつ変わる印象
「なんだー終わっちまったか」
1曲踊ってからは物凄いスピードで制服に着替えた。さすがに男の子の前で着替えるのは恥ずかしい。
山本くんもジャージから制服に着替えていた。
2人で帰る2回目の帰り道。山本くんの雰囲気のおかげかあたしも随分話せるようになった。
こんなに早く人に打ち解け始めている自分にびっくりしている。
「名字はダンスがすきなのな」
普段の見た目からダンスをしているとは思われたことがない。だからダンスがすきなんだねと言われたこともなかった。
自信がなくて言えなかった言葉も山本くんが言ってくれたので少し勇気を出して『うん…だいすき』と答えることができた。
「そうか!俺も野球だいすきだぜ」
やっぱり山本くんは自分のすきなものをすきと言えて、羨ましいな。
『うん…だいすき』
ダンスがすきかと尋ねれば恥ずかしそうに、でもすごく嬉しそうにこう返ってきた。
この笑顔だけでダンスがすごくすきだとゆうことが伝わってくる。
名字を始めてみたのは中1の冬だったと思う。外は寒くあまり長く練習できないので屋内の筋トレ室で自主練していた時のことだ。
どこからか音楽が聞こえてきて誘われるように音のする方へ足を向けた。
剣道場と書かれた扉の隙間から中を覗けば、1人の女の子がとても楽しそうに、しかし真剣に踊っているのが目に入った。
1つ1つの動きを丁寧に確認しながら踊る、しなやかなのに力強いダンスに魅了された。
ダンスは詳しくなくても彼女はうまいのだと思える程だった。
踊り終わった彼女に気付かれないようにその場を立ち去る。真剣に練習しているのに邪魔しちゃ悪いだろう。
それからしばらくして廊下でチア部の彼女を見つけた。
踊っている時のような元気な笑顔とは違い、優しい微笑むような笑顔をする子だと思った。
チア部は元気な子が多いから彼女も同様活発な子だと思ったのだが、どうやら違うみたいだ。
それでもこの間見た楽しそうに踊る彼女も、友達といる彼女もどっちも彼女の一面なのだろう。
どんな子なんだろう。
すごく興味が沸いた。
2年になり同じクラスに彼女を見つけた時は内心ガッツポーズ。
観察した結果(←)人見知りなんだろうなと思う。いつも部活の子達の輪の中にいる。同じ部活の仲間には気を遣わないのか他の人達に比べて随分打ち解けているように思えた。
教師にあてられれば自信がなさそうに答えるが、彼女が間違えた答えをしたことはない。
きっといつも宿題もちゃんとやってくる子なんだな。
話しかけるタイミングがないまま2ヶ月が経った頃、ヒバリに捕まっているあいつを見つけた。
至近距離でヒバリに睨まれれば誰だって尻込みするだろう。その場に割って入ればヒバリはすんなり帰してくれた。
なんとなく話してみたくて一緒に帰った。
おどおどと話す感じからしてきっと緊張しているんだろう。
この日を境に少しなかよくなった名字と俺。
2回目に一緒に帰った時は今度の大会が先輩と踊る最後の大会なことや、小さい頃からダンスをしていること、自信を付けるためにたくさん踊り込んでいることを聞いた。
少しずつおどおどした雰囲気は消え、ダンスのことを話す名字はいつもより興奮しているようにも見えた。
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