medium story

嘘と茶番と猫騙し





「おっもー」


早くも弱音を口に出す部下を後ろに連れて、暗くなりつつある森の中をひたすらに進む。
もっと奥へ、もっと暗くなるまで。


あいつはこれをただの荷物運びの任務だと思っているのだろうが、本当にそうなら幹部が3人も抜擢されることはない。
ベルがランボから無理やり10年バズーカを奪ってきたように見せたのもわざとだし、それを堂々とヴァリアー邸に持ち込んだのもわざとだ。

そして今日、こんなに堂々と10年バズーカを運んでいるのももちろんわざとで、それを運ぶ役目を新人の女隊員にやらせているのもすべてー


あいつはつまるところ囮ということだ。


俺たちは今日10年バズーカを狙う輩の排除がしたい。
そしてあいつは任務に出たい。
ならば囮役として荷物運びでもさせたらいいと、そういうことだった。


ベルが上手いこと言って任務の説明はしておくと言うので、任せてはみたもののきっと殆ど何も知らされずにここまでやってきたのだろう。
その証拠に「あとどれくらいですか〜」と既に歩くことに対して弱音を吐き始めた。本気で言ってんなら叩っ斬るところだが、言葉の割に元気な顔をしている所を見ると口だけでさほど疲れてはいないようだ。
ヴァリアーの人間がこれしきの山道で根をあげるようでは困る。


囮役のことは元々伏せるつもりでいた。

真面目なあいつは知ればどうしたって挙動不審になるだろうし、加えて初任務とくれば気合いを入れ過ぎて空回りするのは目に見えている。
慣れれば要領よく仕事をこなすし、周りも良く見れて気を遣える奴だが、初めからそう出来るわけではなく、むしろ初めは気負い過ぎてヘマをすることの方が多い。


何も知らない方が囮役としていい動きをする。

それが俺たちがあいつに出した評価である。


敵が出てくればあとはもう俺たちが全員ぶっ倒せばいいし、どこからか監視しているはずのボヴィーノの根暗どもはそれが済まない限り姿を表すことはないだろう。


「おい、時間が押してる。走るぞ」

「えーだっる」

「下りもあるんだからしょうがないわよ!名前いける?」


そういう風に訊けば、真面目で負けず嫌いなあいつは必ず「いけます!」と答える。
そうと知っていて優しさを滲ませるルッスーリアは怖い奴だぜ。あの笑顔の裏でとんでもねえことを考えているのも知っているし、部下の育て方は人それぞれだから口を出すつもりもねえが、晴の隊の奴らはああやって笑顔のルッスーリアに知らぬ間に主導権を握られているに違いない。


重い荷物を女1人に持たせてそれなりのスピードで山道を走れば、自然と俺たちとあいつの距離は開いていくし、あいつの息だけ上がっていく。
先程までベルとぎゃいぎゃい言いながら重いだの疲れただのと口答えをしていたが、本当に疲れてくると黙ってそれを表に出さないように振る舞う。


最短ルートだと偽ってあえて木の上を移動しているせいもあって、見るからにあいつのスピードが落ちた時ー


「っ、うわっ」

「ししし、だっせー!先輩、名前が足滑らせたぜ」

「う"ぉおおい!何やってんだぁ!10年バズーカは無事だろうなぁ!」


本当にこいつに作戦の内容は教えてないんだな?そんな俺の目配せに小さく頷いたベルが、名前を馬鹿にしながら口笛を吹く。
その口笛の意味を知るのは俺たち3人だけで、名前は心底馬鹿にされた気分だろうが、無事に帰ったら褒めてやろう。

何せ周りは敵だらけ。

狙ってやったんじゃないとすれば、とんだラッキーガールだぜ。


title by:誰花


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