medium story
羽ばたきさえ忘れなければ
「お前に特別任務を言い渡す」
「ついにきた!!」
「……そこに隠してある10年バズーカをボヴィーノファミリーに引き渡す際の荷物運びをお前に命じる」
「………………」
「嬉しすぎて声も出ねえかぁ?」
「何から突っ込んでいいのか分からなくて困ってます」
「何も言うなぁ!俺は最後まで反対だったんだからなぁ!多数決で負けたんだぁ!!」
そんなわけで、私の記念すべき初任務は、10年バズーカを運ぶというものに決定しました。
そもそもこの10年バズーカはベル隊長が雷の守護者からパクってきたのではなく、きちんと依頼をされ預かってきたものだった。
その依頼主というのがボンゴレ10代目で、ザンザス様へ直接話がきたものだから今回の10年バズーカ輸送任務は幹部の方たちで行うどえらい任務となったようだ。
「ししし、事務員から運び屋に昇格おめでとう名前」
「ベル隊長!預かりものだったならわざわざ隠す必要なかったじゃないですか!使っちゃってるし!」
「元々あのガキが好き放題やってたんだから別にいいだろ。ツナヨシもそこまでケチじゃねーよ」
「スクアーロ隊長にもバレてました!」
「気付くだろあんな所置いといたら。ま、お前も楽しんだみたいだしおあいこじゃね?」
バ、バレている…。
そこを突かれては何も言い訳ができないのでとりあえず黙る。
今回スクアーロ隊長、ベル隊長、ルッスーリア隊長の3人で行う予定だった任務に私を同行させようと提案してくれたのはルッスーリア隊長らしい。それにスクアーロ隊長はやっぱりというべきか、もちろん反対していたみたいだけど、ベル隊長も賛成してくれたことで折れた。諦めたと言った方が正しいのかもしれない。
依頼主こそ大物だけれど内容としてはDランクでもおかしくないような単純なもので、10年バズーカをボヴィーノファミリーに届けさえすればそれで任務完了だ。
武器を専門に輸送する運び屋もいるんだし、わざわざヴァリアーに依頼しなくても良かったんじゃないかとさえ思ってしまう。
なんにせよ、私の初任務!
しっかり運んでしっかり任務を遂行して、その働きっぷりをスクアーロ隊長に認めさせて次に繋げなくちゃ。
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「え、ファミリーのアジトまで車で行くんじゃないんですか!?」
「う"ぉおおい!ベル!お前こいつになんて説明してんだぁ!!!」
「あー?しっかり運べよって言っただけだし」
「それだけかぁ!?」
車中スクアーロ隊長の大きな声が響きまくる。
任務の内容は一番はじめにスクアーロ隊長から聞いた通り。
その後、詳しい内容や行動についてはベル隊長から話がもらえることになっていたらしい。
ベル隊長は任務が決まってから一度会いにきてくれたけど、任務の内容については一切聞いてない。これはスクアーロ隊長の人選ミスだよ。ベル隊長が仕事のことで私に話しかけたことなんてないもん。
「ボヴィーノはね、少し警戒心が強いのよ」
「根暗なだけだぁ」
10代目の雷の守護者はわずか7歳。
元はボヴィーノファミリーに在籍していた子供だったけど、日本に渡り、10代目と生活をしていく中で雷の守護者として選ばれた。
その時、所属ファミリーもボヴィーノからボンゴレへと変わっている。
ボヴィーノファミリーは、今でこそマフィアを名乗っているが元は科学者の集まりだったらしい。
それもあって10年バズーカなんていう代物の発明に成功した。武力ではなく科学力でこの世界を渡り歩いてきたファミリーである。
科学者という職種が影響しているのか、疑い深く用心深いファミリーでもあり、アジトと呼ばれている大型の研究所へはほとんど余所者を寄せ付けていない。そこでは未だに、ありとあらゆる研究が為されている。
「行けるギリギリの所まで行って、そっからは歩きだぁ。指定場所で向こうの使いにそいつを渡す。」
「初めからボヴィーノの方に取りにきてもらえばよかったんじゃ…」
「うるせえ!一応、牛のガキのもんなんだから今はボンゴレのもんなんだよ!」
スクアーロ隊長は私が任務に同行することが決まってからとても不機嫌だった。
こんな幹部の方がやらなくてもいいような内容の任務に行かされているのも不服なのか、それに私みたいなのが着いてきてさらに面倒だってところだろう。荷物運びの役ですら満足にできない奴だと思われている。だんだんムカついてきた。
「寝る!静かにしとけ!」と目を閉じたスクアーロ隊長に向かって、「キィー!!」と威嚇しているとルッスーリア隊長に女の子らしくしなさいと怒られた。ルッスーリア隊長に言われてしまったら大人しくするしかないじゃないか。
ベル隊長はナイフを弄びながら常時楽しそうだし、ルッスーリア隊長はいつもと変わらず落ち着いている。任務だという感じがこれっぽっちも感じられないんだけど、そもそも任務が初めてだし移動中はこんなものなのだろうか。
ベル隊長が暗殺に行く前のあの雰囲気を一度目にしてしまっているからか、それに比べるとどうにも緊張感というものがない。
「降りるぞ」
「すんごい山の中ですね」
「ししし、熊に襲われんなよ」
「熊出るんですか!?」
「熊なんてかわいいもんじゃない」
降ろされたのは山の途中。前も後ろも同じような風景の山道に全身真っ黒い集団がポツリ。
すごく浮いているような気がするのは私だけだろうか。周りが色鮮やかな緑ばかりなので、その中で不自然な黒は馴染めていないようにも思う。
「おっも…」
「落とすなよ」
「分かってますよ!」
もうすぐ日も落ちる。
ただでさえ見知らぬ森の中、熊だなんだと言われたが本当に出てきてもおかしくない雰囲気はある。暗くなる前にこれを引き渡したいところだけど、一体ここがどの辺りで、ボヴィーノと合流するのがどの辺りなのかを教えられていない。
ゴールの見えない道のり程、遠く感じるものはない。
「ベル隊長わざと私に任務の詳細教えてくれなかったんですね?」
「知ったところでお前のすることは変わらねーよ」
「そうですけど!」
「何も知らねーほうがスリルもあって実力発揮できんじゃね?」
実力は発揮したいけどスリルは求めてない。
それに私は起こりうる危険を事前に予測しておきたいタイプなんだってば。備えあれば憂いなし。母国のことわざだ。予め最悪なことが起こっても動揺しないように、対処法を考えておきたかった。
背中に背負った10年バズーカは、私を毎度同じ未来にしか連れていってはくれなかったけど、少なくともこのヴァリアーという組織の中で10年間生き抜ける私が存在する。それを教えてくれたことには感謝をしなければならないだろう。
そしてどうか2度と私の前に現れてくれるなよ。
title by:誰花
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