medium story

ないしょのさよならをしよっか





「おい、なんだこれは」

「見てわかりませんか?コーヒーです」

「こんな砂糖まみれの飲み物はコーヒーとは呼ばねえよ!!!嫌がらせかてめえ!」


皆さんこんにちは。特殊暗殺部隊ヴァリアーの戦闘員名前です。もう一度いいます。戦闘員です。
決して事務処理担当の事務員でもないし、お茶汲みでもありません。

そしてそのゲロ甘いコーヒーは完全に嫌がらせです。スクアーロ隊長はブラックしか飲まないと以前聞いたのであえて苦いコーヒーが飲めない私ですら「あっっま…」となるくらいに砂糖をぶち込んでやった。


スクアーロ隊長と副隊長のペアでの任務は本来の予定通り2日で遂行し、3日目には不在の間に溜まっていた書類を片付けるべくこの隊長室へとやってきた。


「なんだこの書類の山はぁ!」

「全てスクアーロ隊長の確認待ちです。」


スクアーロ隊長を出迎えたのは仏頂面の私と綺麗に山積みされた大量の書類達。ちなみに私の机の上は一枚の書類も存在していない綺麗な状態だ。スクアーロ隊長が任務に行く前に残していった書類にプラスしてこの2日間で新たに持ち込まれた書類、そして私が自ら催促に向かい集めてきた任務報告書がごっそり。

それら全てをスクアーロ隊長が帰ってくるまでに終わらせてこうやって机の上に積んでやったんだ。しかもギリギリを攻める高さまで積み込んだ山が3つ。少し肘が当たれば崩れる事まちがいないだろう。崩れてその書類に埋もれてしまえ!!


「今日私にできる仕事はありませんので、トレーニングに行かせていただきます」

「トレーニングだぁ?」

「当たり前です。私、戦闘員なんで!!」


バタン!と勢いよく閉めた扉の向こうで、書類の雪崩れた音とスクアーロ隊長の悲鳴を聞いた。うふふふふと声を出して笑ってしまった私は今相当な悪女面をしているんだろうな。


それでもスクアーロ隊長が私にした仕打ちより全然可愛いものだし、スクアーロ隊長はもっと痛い目を見たらいいと思う。そして私のことを嫌いになってくれればいい。今だって別に好きじゃないんだろうけど。これから先も好きになることはないくらい、私を嫌いになってもらわないと困るのだ。


10年後、私は多分スクアーロ隊長と所謂恋人同士というものなんだろう。認めたくないけど、超絶不本意だけど、その関係性なら勝手に部屋に入ってきたり妙に距離が近くてベタベタしてきたり、キスしてきたり全ての不可解に納得がいく。

私が過去2回行った未来は恐らく同じ世界。もしくは微妙に違いはあるのかもしれないけれど私とスクアーロ隊長の関係性は同じ世界。


「あんな未来は絶対に嫌!」


そう。私はありとあらゆる手段を使って未来を捻じ曲げる努力をしています。


「お前最近変だぞ」

「味覚の話ですか?」

「全部だ全部!!」


10年バズーカで入れ替わる自分は確かに自分自身だけど、例えばザンザス様に退職届を突き出してヴァリアーじゃなくなった私が10年バズーカに当たれば、どこかで一般人に紛れて普通に暮らす私が現れる。その前にザンザス様にかっ消されて誰とも入れ替わらないかもしれないけど。


もしもの数だけ世界が存在するのであれば、スクアーロ隊長とそういう関係になっている世界があるのは認めるとして、そうならない世界だって確実に存在しているはずなわけで、私はそれを目指して奮闘しているというわけだ。

今の状態がなんであんな未来になるのか想像もできないけれど、お互いがお互いの何かしらをいいと思って惹かれ合ったわけだから、スクアーロ隊長が私をそういう対象で見ることがないように最善の注意を払えばいいだけのことだ。

私がスクアーロ隊長に惚れる確率はない。

未来でされたことは思い出すだけでも沸騰するんじゃないだろうかってくらいに頭に血がのぼるのだ。

あれがなければ私もこれでも女だし、スクアーロ隊長は剣士としては尊敬しているし見た目だけならイケメンだから惚れたりなんかもしたのかもしれない。

ただそれも「かもしれない」のもしもの話で、実際私はあり得ないと思っているし、未来のスクアーロ隊長に対して怒っている。今の隊長にはなんの恨みもないけれど、このスクアーロ隊長が10年後あの忌々しいスクアーロ隊長になるのかもしれないと思うと、早いうちにその可能性は摘んでしまったほうがいいという結論に至ったのだ。


「そんなことより私の初任務はいつですか?」

「コーヒーも作れねぇ奴は連れてかねぇ」

「次のDランクですか?」

「会話しろぉ!」


スクアーロ隊長の血管が切れてしまいそうだ。
悪戯ばかりしていたら任務からどんどん遠ざかりそうだけど、任務に連れて行って貰えないのは今に始まったことじゃないし。

任務に出たいが為にスクアーロ隊長に気に入られるか、はたまた将来お付き合いをしない為に嫌われるか。それを半日悩んで、結局後者を選んだ私はバカなんだろうか。


title by:花洩


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