medium story

おこちゃま戦争




名前と喧嘩をした。

喧嘩と呼ぶにはあまりにも幼稚で、かといって子供のように次の日には何もなかったように振る舞えるほど無邪気でもなかった。

ちょっとかっこつけて言ってみたけど、まぁ要するにどっちが悪いなんてものじゃなくて冷静になってお互い一言ごめんと言えたらそれで終わりなんだけど。それがなかなかに難しいんだってことに気付いたのもこの喧嘩があったからで、そして気が付けば名前は俺の中で相当に大きい存在になってたんだなって思い知らされた。


学生時代から知り合いではあったけどあいつは常に女達とキャッキャしてたし、俺も俺でつるむのは男ばっかりで、特別仲がいいってわけでもなくて。
数あるマフィアの中からボンゴレの、そしてその中でも門の狭いヴァリアーへと入隊を決めた学生が同学年に2人いるとちょっとした騒ぎになったのも懐かしい。

そんな訳で意図したわけではなく自然な流れで、これからの同僚としてよろしくという意味も込めて、握手を交わしたのはちょうど卒業式の日だった。


元気がいい奴だとは思っていたけど、話してみれば本当に元気が取り柄です!とその笑顔が伝えてくる。人懐っこくて結構ズバズバとモノを言う女だった。ねちっこいのは好きじゃないし俺としても気を遣わずにこうして話せる同僚がいるっていうのは、知らない組織でやっていく上でかなり心の支えになってた。


みんながみんな新人ってわけでもなくてさ、引き抜かれてきた奴とか自ら志願して他からヴァリアーにきた奴とか正直上を見たらキリがなくて。その中で俺たちはそういう学校を卒業しただけのアマチュアだったんだ。だから経験値としては0な状態でここに放り込まれたんだ。

あんなに大勢いた志願者が最後に残ったのはほんの数名で、入隊できたからって安泰なわけがなくて、経験したこともないような厳しい新人研修が俺たちを待ち構えていた。折角入隊したってのにそれに耐えきれず脱落してった奴もいる。俺は、俺たちはお互い励まし合いながら、少し教官役の先輩の愚痴なんかも言いながらそれを乗り越えてきた。


なかなか任務に出れずにいる名前だったけど、あいつは決して弱い奴じゃないしスクアーロ隊長も何か思うことがあっての選択なんだろうと思ってる。
毎日必死に身体を鍛えて剣を振りいつかくるはずの初任務の日に向けて直向きに努力する名前を俺は見てきたつもりだった。


「おい名前、聞いてんのか?」

「あ、ごめん」


見てきたつもりだった。名前のことはこのヴァリアー内で俺が一番知ってるんだと思っていたんだ。

だから自暴自棄になって俺に八つ当たりしてくる名前のこともしょうがねぇなくらいにしか思ってなかったんだ。でも、あいつが最後に言おうとした言葉は、そんなことを俺が言うと思ってんのか?って心外だったのと、そんな後ろ向きな女だったのかてめえはって気持ちが半々くらいで。

よくよく考えればそれは全部俺が名前という女がこういう奴だと決めつけてたからこそ湧き上がったわがままな怒りだったんだ。


俺の前でいつも元気だからって、1人の時でも元気なわけじゃないだろうし、あんなに能天気な奴だけど悩むことだってあるに決まってる。それをいつも俺には冗談半分にチラリと提示してくれていたのに、あいつのノリに合わせて真剣に取り合わなかったのは俺の方だ。


名前が泣いたと教えてくれたのはスクアーロ隊長だった。

先程任務帰りにひょっこりと現れたベル隊長を見て突如号泣。そのまま拉致られ今に至ると。

名前の泣き顔は見たことねぇなぁ。卒業式の日ですら他の女子達が泣いている中で1人晴れ晴れした顔をしていて、それがすごく魅力的に思えた。涙が似合わない女だと決めつけたのはその時か。


「お前卒業式の日泣いてなかったよな?」

「寂しくなかったもん!これからヴァリアーとしての生活が待ってるんだって思ったらさ、泣いてなんかいられなかったよ!」


涙が似合わない訳じゃない。悲しくなかったから泣かなかっただけで、悲しければちゃんと泣ける奴だった。

泣いてるあいつを連れ出したのが、その涙を止めてみせたのがベル隊長だったってことが、なんか悔しくて。俺の方が先にあいつを見つけたんだぞなんて、またガキ臭いことを思ってる。

あいつを泣かせた本当の理由はあいつにしか分からないけど、その半分くらいは俺のせいでもう半分はスクアーロ隊長のせいだろうな。


「やっほーレイ。隊長様のご帰還だぜー」

「名前どこっスか?」

「ししし、愛だねー」


そんなんじゃない。そんな大層なものじゃないし、俺も名前もガキすぎてまだそんな領域に足を踏み入れることはない。
どちらかというと男同士の友情に近い。
少なくとも俺はそう思ってる。


「レーイー!!!」


名前を探して廊下をうろついていた俺の名前を元気に呼ぶのは、俺が良く知る元気な名前。
あぁ、お前を笑顔に変えたのはベル隊長だったか。ちょっと残念だなって思ったことはまだ内緒にしとこう。


「ねぇレイ!あのね、「なー名前!」


どちらが悪いわけでもないんだけど、こういうのは先に言わせてくれよ。もう泣いた理由を忘れてても、今はもう泣いていなくても。


「ごめんな」

「私もごめんね」


何がとも言わないし何をとも言わないけどお互いそんなのも良くわかってないんだ。ただただお前といつも通りにいかねえのは居心地が悪ぃよ。





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