medium story

お前はアイツを腐らせたいのか





「隊長、任務前にこんなこと言うのもどうかと思うんですけど…」

「しょうがねぇから聞いてやんよ」

「スクアーロ隊長は名前の何が気に入らないんスかね?」


今日の任務はCランク。リーダーは俺じゃなくても構わなかったんだけど、どいつがどのくらいやれんのかってのは一応隊長として把握しておくべきことなわけで、だったらめんどくせーし最近気になる奴らをテキトーにピックアップして即席チームを作り上げた。チームのバランス?そんなん王子がリーダーである時点で関係ない。だって俺天才だもん。


レイは新人のくせにヘコヘコしてないところが気に入ってる。実力は見てないから知らねーけど王子の見立てだとなかなか使えそうな奴ではある。近頃じゃぺーぺーの雰囲気はナリを潜めてきてるし、いくらCランクとはいえこんだけ任務をぶち込んでいても死んでないわけだし。だからちょっと戦闘中のこいつのことも見ておきたいなって思って連れていくことに決めた。


「お前もまだぺーぺーだなー!」

「ちょ、笑うところじゃないですよ!結構真剣に聞いてるのに!」


スクアーロのことをどんな奴だと思ってんのかは知らねーけど、少なくとも名前が嫌われることはないと思う。あいつはそういう奴だ。この王子ですら名前のことは人間としてなかなかに気に入ってるから、スクアーロだって嫌っているわけじゃないと思う。

レイがいくら心配してやったところで名前の初任務はこないだろうし、こればっかりは頑固なスクアーロのことだからスクアーロが納得するまで名前は今の状況を耐え抜かなきゃいけない。ま、それが嫌ならさっさとスクアーロが認める戦闘員とやらになればいい話だけどな。


「女のことばっか考えてると今日の任務で死ぬぜ」

「なっ、そんなんじゃないですよ!」

「どーだかねー?」


俺が真面目に答える気がないっていうのが分かったのか、隊長を目の前にして堂々と溜息つきやがるこの新人はやっぱりいい性格してんな。嫌いじゃないぜ、そういう所謂ゆとりっぽいところ。

ただ名前の話題が終われば(これは終わったというよりは諦めたという方が正しいか)一瞬にして目をギラつかせるもんだから、将来有望だとちょこっと期待もしてみる。この目は正しく獣の目。これから狩をするハンターのそれだった。


「やっほースクアーロ!邪魔しにきてやったぜー!」

「呼んでねーぞぉ!邪魔しにきたんなら帰れぇ!」

「まーまーそう言うなって。あれ、名前はいねーの?」

「あいつに用か?」


名前とは任務前にあったし今はどちらかと言うとスクアーロの方に用事がある。用って程のもんでもないけどさ。


「随分名前を大事にしてんのな」

「…何が言いてえ」

「いや?スクアーロ隊長殿は優しいなーって」


俺だったら任務に出たいと望むあいつを本人の希望通り任務に送り出すだろう。だってそれが本人の望みなんだから。それで死んだって文句はねーはずだろ。文句なんか言わせねーし、化けて出てきたら返り討ちにしてやる。自分の望んだことに責任も持てねぇ奴は嫌いだね。

スクアーロがなんであいつを任務に出したがらないのかはなんとなく分かる。王子と同じ感性を持ってるかは知らないけど、王子もスクアーロも暗殺集団の組織の中の隊長やってんだから、それくらいはなんとなく分かる。ただ、根本的にやり方が違う。

スクアーロのやり方が名前の為なんだとしても本人はそんなこと望んでないし、本人にその意図が全く伝わってないんじゃ話にならないだろ。いちいち、新人がくるたびに手取り足取り暗殺とはヴァリアーとはを教え説くなんてめんどくせーし、そんなもんはここで自分で学べって俺は思ってる。だから新人だろうが古株だろうが使えそうな奴はバンバン任務に出すし、使えなさそうな奴も何もしないでここにいるんだったら少しは成長する可能性がある現地に送り出しちゃえって考えなわけ。その結果還らぬ人となったとしても、だ。

ウチの副隊長はどちらかというと後者のほうで、よく生き残ってんなーって思うぜほんと。ただ運も実力のうちっていうし、あいつはまだまだ死にそうにないからたっぷりこき使ってやろうと思ってる。使えないと思っていた奴が任務に出て生きて帰ってきてちょっとずつ成長していく。そんなのを間近で見てきたわけだ。


「箱入り娘にすんのも悪くねーけどさ、あいつ本当にそのうち使いもんにならなくなるぜ?」

「……お前こそ随分と名前に入れ込んでるみてぇだなぁ?」

「ウチの新人が気にしててね。俺も嫌いじゃねーよ、名前のことは」


このまま名前が事務員でもいいと考えを変更するのなら、事務員に属性なんか関係ないからそん時は王子の専属雑用係にしてやってもいいなーくらいには気に入ってる。

ただ少なくとも俺が見てきた名前はそんなか弱い奴じゃない。
俺が気に入ってる名前はそんな奴じゃねーよ。





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