medium story
助けたのは野球くん
「なんとか見逃してくれたみてーだなー」
雲雀さんが大人しく帰してくれたのには驚いた。
それよりももっと驚いたのは山本くんが助けてくれたこと。
もっともっと驚いたのはあたしがチア部だって知っていたことだった。
『あの…ありがとう』
小さくお礼を言えば「クラスメートを助けるのは当たり前だ」となんとも彼らしい返答。
山本くんも自主練で使っていた筋トレ室の鍵を返しにきたようで、先程雲雀さんに体育館の鍵を押し付けてしまった際にちゃっかり自分も鍵を渡していた。
「いやー名字のおかげで職員室まで行かなくて済んだしサンキューな」
その場の雰囲気で一緒に帰ることとなったあたし達。
お礼を言うのはこちらの方なのに逆にお礼を言われてしまった。
人見知りなあたしはさっきから相槌を打つばかり。それでも山本くんは気にしていないのか、いろいろ話しかけてくれている。
「そういや部活、だったんだよな?」
『あ、うん』
「こんな時間まで大変なのなー」
『え、いや…。山本くん、あたしがチア部だってよく、その…知ってたね』
「ん、まーな!!」
クラスの中心にいてみんなからの人望も厚い、あたしとは正反対の人。
いつもニコニコしていて堂々と野球がすきだと言える人。
山本くんのイメージはそんな感じ。
『山本くんも、こんな時間まで自主練、お疲れ様』
「おう!張り切りすぎて気付いた時にはみんな帰っててよ。ひでーよな」
『あ、あたしも。みんな雲雀さん怖いから、帰っちゃって…』
それもかわいそうだな!と笑う山本くん。
気付けばあたしも少しずつ話せるようになっていた。
『あ!あたし、こっちだから…』
「お、そうか。うちまで送ってってやろうか?」
『あっ大丈夫。今日は、ほんとにありがと。…また、明日』
「気を付けろよ。じゃーなー」
手を振り小走りで駆けて行く山本くんを、角を曲がり見えなくなるまで見送った。
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